第27話
え、やっぱりだめ? しょうがないなぁ。では先人の知恵を借りよう。仲間の、共同体の集合知を利用しよう。
すなわち、萌え要素の一覧である。これである程度、人間の要素を探し出せる。少々合目的性が強すぎるが、まぁ致し方ない。こんな僕の言葉など、はなからバイアスの巣窟だ。やってしまおう。
どれどれ。
髪は黒髪だ。普通にロングの髪形だ。なるほど、校則を守っている。優等生に違いない。そう記述してしまうのは、完全に校則を遵守した、そのまま学校パンフレットに載せたいくらいの、制服の着こなしのせいだ。ただ制服を着ているだけなのに、気品がある。背筋がいいのもあるだろう。それに身長も高い。雑誌のモデルのようだ。だがそのようなきらびやかな世界に打って出ようというような、そんなキラキラとした若者らしい熱気を感じるわけではない。至極落ち着いていて、清純だ。堂々としている。胸を張って、目の前の人間に相対している。立派だ。
だから美少女としか、表現できない。
本当は、ただ美人とだけ表現したい。だが、明白に制服を着ているのを見ると、やはりまだ成人していないと認識させられる。いやまぁ、成人していないどころか、精神年齢が相当幼いと自覚している僕が言うことではないのだが。
さてと。
萌え要素の一覧では、性格や関係性萌えの項目が混ざっている。だから現時点では、髪型と制服のところしか使えなかった。これが僕の、僕たちの限界だ。
男子側の告白は、まだ続いていた。僕はかなり変な姿勢をしていたため、そろそろ体がきつくなってきた。もうそろそろ、この卑しい遊びも終わらせようかと考えていた。
離脱しようと大宮に声をかけようとした。だが、できない。なぜなら、大宮の顔が、何か今まで見たことのない、そんな顔になっていたからだ。そんな驚きの顔をしていた。
僕がどうしたものかと思案していると、あの美少女が口火を切った。どうやら、向こうさんもしびれを切らしてしまったらしい。さっさと断ってしまった。
そのあっさりとしたこと! その言葉の、無慈悲さよ!
僕は彼女の容姿から、とんでもない勘違いをしてしまっていたらしい。清楚な雰囲気から、人にやさしい人間で、慈愛にあふれていて、他者に気を遣えて。もし断るにしても、傷つけないよう、優しくすると思っていたのだ。
だが不愛想に、粗雑に、すっぱりと、断った。
そして、なおあきらめきれないのか、話を続けようとする男子に、こう言い放った。
私は人間が嫌いだ。特に男子は嫌いだ。だからどう努力しようと無駄だ。ちゃんと話に付き合っただけでも感謝しろ、と。
ここまでくるとすがすがしい。僕はむしろ、まるで悪役になるかのようにして、自分を恨ませて、彼の心がすっきりとなるように、諦められるようにするための配慮だったのではとすら思った。(ここまで好意的なのは、ただ単純に僕が陰キャで、リア充が嫌いだからだ。そこで目の前でカップルが生まれなかったとしたら、これは台風が来なかった時の農民のように喜ぶのは自然なことだ)
そして彼女は、颯爽と去っていった。
男子の方は、それはもう同情を誘うほど嘆き、同情を誘わないほど、激しく涙を流していた。あまりにも見苦しいので、僕は目を背け、またポスター貼りの旅路に出ようと思った時、大宮が声を発した。
正確には、声にならない声を漏らした。
それに僕は、尋常ならざるものを感じて、とりあえず姿勢を正しくさせて、大宮が楽になるようにした。そして落ち着くまで待った。
「先輩…。」
「なんだ? ゆっくりでいいからな。よかったら、僕にそこまで驚くような話を聞かせてくれ」
「先輩。あの…。あの女の人…。昨日の黒パンの人っす…。」
なるほど。
「は??」
「間違いないっす。顔が同じでした。それに、あの雰囲気。あの冷たい空気。間違いないっすよ」
嘘だろ…。
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