第22話

「じゃあ先輩、そこまで読書がいいっていうなら、何か本をおすすめしてください」

「ええ~。オタク関連以外だとパッと思いつかないな…。『御冗談でしょう、ファインマンさん』とか?」

「どういう本っすか?」

「偉大な物理学者でノーベル物理学賞とった人の伝記なんだけどさ。まぁハチャメチャで面白い。さっき言っていた、自分の世界が広い自由な人、の一番いい例だな。物理学者なのに、考古学とか芸術にまで手を出している。たいていの文系なら、これを読んだら自分にはいかに才能がないのかを痛感する羽目になる。一つのことですら、このファインマン先生に負けてしまうのだから。数学のできないやつが文系に行くのであって、人文科学がやりたい奴が文系になるのではないっていう言葉に重みを増すことになる一冊だ。いや、正確にはシリーズものなのだが」

「なるほど、なるほど。つまり先輩はそれ読んで自分の無能さに打ちひしがれ、絶望したってことっすね!」

「違う! そこまで絶望していない!」

ちょっとは自分が嫌になったが。

「才能って言葉、先輩くらいの年の人は好きっすよね~。中学二年生のころは、自分には隠れた力があって…! みたいな話にあこがれるのに、高校生になったら、もっと悲壮感漂わせて才能を語るものですから、変な話っすよ。中二病で非現実的な才能にあこがれておきながら、高二病ではそもそもなんの才能もないことに気が付いて、ニヒリズムこじらせるんすから。そういう人たち、何かあるとすぐニーチェに飛びつくっすよね。それで偉そうにするのが鼻につくっす」

「ニーチェは著作が何を言っているか、作者すら知らないんじゃあないのかってくらいわけわからないから嫌いだけどさ…。いまごろ全国の自称ニヒルたちがわめいているぞ…。」

「好きにさせとけばいいんすよ。なんにも面白いものをもっていないのに、それを自慢してくる上から目線なやつは嫌いっす。わたしは楽しい人が好きっす」

「鏡でも持ってくればいいじゃないか。たぶん、京成高校で一番見ていて飽きないくらい(予測不能なことをしていて)面白い奴が鏡に映りこんでいるから」

「鏡もってないっす」

「じゃあほら、スマホのインカメラで見てみろ」

「どれどれ…。え、めっちゃかわいい美少女が映ってるっす! え、だれだろ! 名前聞きたいな~。どこの学校通っているのかな~? イケメンの先輩とデートとかしているのかな~?」

「オタクで陰キャな先輩で悪かったな!」

「悪いとは言ってないっすよ。でもこうやって、自撮りしたときになんか隣にいて映えないっていうか…。」

「あんまりフォローできていないよ…。ていうか、むしろ追い打ちをかけられた気分だよ…。」

「お師匠さんに習ったっすよ。相手を倒したかどうかはしっかり確認しろって。そしてそれが面倒だったら、確実に倒せるように打ち込めって」

「武道習っていたのか、大宮。初耳だ」

「そうっすよ。ひ弱だと油断させておいて、いつか痛い目を見せてやろうと思っていたのに、うっかり口が滑ってしまったっす」

「僕を倒すためなのかー!」

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