第11話

 心地よく晴れた日曜日。まったくもって惰眠に適した日曜日。これはもはや布団から出ない方が自然の摂理にかなっているのでは? 上善は水の如し。水が低い方へ流れていくように、僕も低い方へ、楽な方へ流れていくべきなのでは? 老荘思想万歳! と考えていた僕のところへ、大宮からの催促メッセージが届く。

 やれやれ。

 このままだと月曜日の勝負で僕が殺されかねない。

 まだ今期のアニメの結末を見ていないのだ。生きていても、目や耳が機能しなくなる未来は避けた方がいいだろう。

 僕は大宮`Sセレクトの洋服に身を包み、家を出る。


 日曜日の駅前は人が多い。この雑踏の中だと、身長の低い大宮を見つけるのは困難だろう。

「りょ~う~せ~ん~ぱ~い~~~‼」

 一方、背の高い方は簡単に見つけられてしまうというわけだ。これが自然界だったら命はない。身長差を生かして、先に天敵を見つけられるようになろう。

「自然界じゃなくても、文明世界で殺してやってあげましょうか?」

「おっと大宮。語尾の『す』はどうした『す』は? 目が笑っていないぞ。ほ~ら、どうどう。落ち着け~。敬語使用後輩キャラは確かに僕の萌えストライクゾーンに入ってはいるが、今のこのドキドキは多分、ときめきでも外出に向けての胸の高鳴りでもなくて、生命の危機のドキドキだからな」

「ドキドキするのが嫌なんすか? じゃあ今すぐ止めてあげるっすよ」

「そう心臓を抜き取る構えをしないでくれよ。茶の一杯でも飲めば収まるから。だから元凶を何とかしてくれ。じゃないと不眠不休の僕の心筋がお暇を申請することになる」

「ペットが飼い主に似るなら臓器も飼い主に似ると思うっす。だからそんな自分を押し殺して働いている心臓さんの気持ちを汲み取って、長期休暇をご用意するのは後輩の役目っすよ」

「こらこら。先輩の意思を勝手にくみ取って行動するな。これが会社なら評定下がるぞ」

「下げる先輩ごと葬り去ってやるから大丈夫っす!」

 大宮はカンカンに怒っていた。


「まったく…。なんでそんなに出不精なんすか。社会生活に致命的な影響が出るっすよ」

「なんでって言われても。必要を感じないから?」

「必要しかないっすよ! 外に出ないでどうやって生きろと言うんすか!」

「でも僕は生きている」

「そんな、やなせたかしが作った歌詞みたいに言われても…」

「僕らはみんな~生きている~♪ 生き~ているから引きこもる~♪」

「そんな歌詞なら教育現場から追放っす」

「でもこの後、手のひらを太陽に向けなきゃいけないんだろ? いやだなあ。もはや太陽に当たることすら面倒だ。重力に逆らって手を上げるだなんて、正気の沙汰とは思えない」

「先輩は早く正気に戻ってください。あと、まともな生活スタイルを身に着けてください」

「なんだ大宮? 生徒指導部か? 敵に寝返るとはいい度胸だ! 成敗いたす!」

「…。」

 無言で僕の腹に大宮の天誅が下った。

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