第3話

 全力で階段を駆け下り、角を曲がる。上がった息を整えて扉を開ける。


「すみません遅れまし……え?」


 扉を開いた所には静かに本を読む会長だけがいる。


「あれ、他の人は?」


「いや、まだ来てないよ」


「え?放課後11時に生徒会室って……」


「1時に生徒会室集合の予定だよ」


「えぇぇ。こんだけ焦って間違いだったのかよ。悲しすぎるって」


「まぁそこに突っ立って悲しんでないで座ったら?どうぞ」


 会長は隣の椅子を叩く。

 俺は静かに会長の隣りに座る。


 「まぁ後2時間はあるから好きに過ごしてね」


 そこからは静寂が戻る。

 聞こえる音は会長が本のページをめくる音だけが響く。


「そうだ。西木君、本は読む?」

「いえ、全く読まないってことじゃないんですけど本を読むほうではないですね」

「じゃあ家とかだと何をしてるの?」

「なんですかねぇ。基本はグダグダ寝てる事が多いんですけど、料理なんかもしますね」

「料理。へぇ、どんなものを作るんです?」

「最後に作った料理は何だったかなぁ。あ、これだ」


 スマホのカメラロールにはトロトロのオムライス。

 最近では一番の出来だったと思っている。味も良かったし最高に卵が柔らかく出来ていた。


「すごい。とっても美味しそう」

「ありがとうございます。会長は料理とかするんですか?」

「全然やらないなぁ。全くって言ってもいいくらい」

「そうなんですね。結構料理やるのかなって勝手に思ってました」

「そうかな?じゃぁ、そんなイメージがあるならさ、料理教えてよ」


 会話が止まる。静寂の中でも窓から入る暖かい風が頬を撫でる。


「嫌だった?教えるのは」

「いえいえ、そんなことはないです。でも……」

「でも?」

「でも俺なんかが会長に何かを教えるっていう事が何だか不思議で」

「何言ってるのよ。まだ入学二日目なのに変に肩に力入れすぎだと思うんだけど」

「そうですかね……」

「そう、だからもっと楽にしていいよ。私のことも会長、会長って呼ぶのやめてね。その呼び方は何だかくすぐったいからさ。好きに呼んじゃっていいよ」

「好きにって……一番難しいじゃないですか」

「決まらないなら真依って呼ぶ?」


 会長は上目遣いでこをっち見てくる。それでもいきなり下の名前なんて。

 本当に呼べるならいいかもしれないが流石に失礼だ。

 

「いやいやいや。それは無いでしょう!?」

「今すぐ決まらないなら真依で決まりだからね」

「そんなぁ。今すぐにって、初対面なのに……」

「初対面の人なのにこんなに話せてるんだしもう全然大丈夫でしょ。ほら、早く考えないと真依って呼ばせるよ?」


「……大河原、先輩……これでどうです?」

「仕方ない。それで勘弁しよう」

「それでって……」


 物凄く不服そうなに先輩は頬を膨らませる。


「もう、それじゃあ――」


 大河原先輩の話を遮るように元気よく扉が開く。


「お疲れ様~!河原ちゃんに、君は西木君だ!二年五組の庶務担当、小林紗枝だよ。よろしくね!」

 「はい、よろしくです……」


 庶務担当、小林紗枝先輩。朝礼での自己紹介を聞く限り物凄く明るい人だ。と思っていたが、想像以上だ……。

 何が凄いって、勢いが凄い本当に凄い。



 開け放たれたドアから静かに入ってきたのは。広報担当の島崎準先輩。

 噂によると有名なインフルエンサーだ。みたいな話を聞いたがどうなんだろう。


「はぁ。小林、少し静かにして。うるさい」

「うるさいって、そんなにはっきり言わなくてもいいんじゃない?傷つくわよ」

「大丈夫だ、お前なら」

「お前ならって何よ。煽ってるの?」


「はい。二人共喧嘩やめて、もう。一年生が入って来てもう上級生なんだから」


 いつの間にかやって来ていた議長の松下穂香先輩が二人の止めに入る。

 後ろには一緒に来たらしい同じ学年の北川さんもいる。


「よし、集まったわね。始めましょうか」


 立ち上がった大河原先輩の声が部屋中に響き、初めての生徒会活動が始まった。

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