第十五話 クラス内対抗戦①

入学してから早三か月ちょっと、あくまでもこの学園は戦闘技術を身に着けるためにある、最初の一か月は座学がほとんどを占めたが二か月目に入り実習訓練が多くなり始めた。そして入学から初めてのイベントとなるだろうクラス内対抗戦が来月に控えることになった。




 「お前ら、知っての通り来月の頭にはクラス内対抗戦が始まるからな。しっかりクラス掲示板を見ておくんだぞ」




 クラス内対抗戦、一クラス計40人、その中で自由にパーティーを組みトーナメント方式として対戦を行っていく。パーティーは5人一組、特にルールなどはなく好きなように組んでもよいとのこと。


 そしてこの一イベントは今後の行き先をだいぶ左右するものである。八組の内一位から順にポイントが振り払われその中でもリーダーを務めたものには追加点としてポイントが配分されている。このポイントによって次年度のクラスの振り分け、ギルドからの勧誘率、学外イベントへの参加権など様々なところで優位に働く。当然みなそのことは知っているため強い者から引き抜かれていくのだ。




 「ジェイス、どうすっか」




 「俺は何でもいいと思うけど、だってお前がたぶんこのクラスで一番強いし」




 ジェイス目線イフリートを置いておいて、模擬戦で見せたウィルの動きからそう考えた。あの時見せた動きは今までモンスター狩りに出た時のウィルとは一味違った。構えの型は昔から変わってはいない、では何が変わったのか。無駄な動きが大分削ぎ落しぎこちなさがなくなった、それに加え相手の動きの読み。そして明らかに筋力が発達していた。ウィル対ベリアル戦の後試しに木刀を振るってみたがウィルみたく下から上へ振り上げる動作で砂塵が巻き起こることはなかった。今まで隠していただけかもしれない、ウィルが今まで使っていた得物は主にショートダガーだった、今までソードを握った姿を見たことがなかっただけかもしれないが間違いなく今のジェイスよりもウィルの方が筋力は勝っていた。




 「まぁイフもいるしね、適当に集めといてくれないか?」




 「ちょっと、そこに私も入れてくださいます?」




 とそこで三人目のメンバーと思わしき金髪縦ロールが割り込む、何もまだ二人しかいない貧弱パーティーに入らなくても、いくらでもお誘いいただける実力の持ち主がパーティーの参加を希望する。


 意図は分からない、ただ入るパーティーがなかったのか、はたまた先ほどの話を聞いて共感する部分があったのか。もしくはイフリートの存在に気付いているのか。いずれのどれかは分からないがパーティーメンバーとして確保しておくに越したことはない。




 「ならあと二人頼んだよ」




 人任せなのかジェイスを信頼してるのか、一元の授業へ向けてウィルはそそくさと準備に向かっていった。




 「いきなりごめんねジェイス君」




 「まぁいいってことよ」




 ウィルが立ち去ったのを見計らいスミュール令嬢がジェイスに何かを手渡した。前もって準備していた通り。






 いつもより少しだけ早く起きる。いや、貴重な数分の睡眠を阻害された。




 「誰だよ、朝っぱらから。」




 朝早くからドアをノックする音、そんなに緊急事態なのか、そんな思考も回るはずもなく睨みながらもドアスコープを除く。




 「ん、」




 映るのは金色の頭部のみ、ジェイスに訪ねてくる金髪男子と言えばと思いつく該当者はいない。では誰であるのか。ドアに手をかけ押す。




 「ご機嫌よ」




 そこにいたのはクラスメイトであり確かにドアスコープに映るはずのないスミュール令嬢が立っていた。男子寮でありながらこんなに朝早く訪ねてくるとはそれほど大切な話があるのか、と理解するジェイス。実際男子寮への女子の立ち入りその逆も然り、また人前では離せない内容とこの時間に訪ねる理由はあった。




 「ちょ、いいから入れ」




 そこまで頭が回るまで数秒程度で間に合った。万が一、同じ寮の奴に見つかれば報告の内、反省文やら退学やら何らかの罰を受けることになる。


 スミュール令嬢を無視すればジェイスは罰せられないだろうが、どうにもそうする気にはならないのがジェイスである。


 スミュール令嬢を椅子に座らせベットに腰掛ける。覚醒した脳がどんどん処理を開始していく、大体であるがスミュール令嬢がジェイスを訪ねてきた意味が分かってきた気がする。本日から登録開始が始まるクラス内対抗戦のパーティーについてだろう、それも目当ては俺と組むとではない。ウィルであると言い切れる。これと言ってジェイスと関わっている人はいない。それに普段の生活を見ていればわかる、スミュール令嬢はウィルに気があると。となれば提案も大体想像できた。




 「あの、今日のパーティー分け、私もジェイスさんのパーティーに入れてもらえないでしょうか」




 「スミュール令嬢ほどのご協力をいただけるのはうれしいのですが、なぜまだパーティーも組み始めてない俺のところ


なんですか?」




 上級生から情報は流れてくる、教師から今度はこれをやると言われなくても前もって知っているのが大半、だから今回のイベントでも前もってパーティーメンバーを集めているものは多かった、あいにくウィルもジェイスも誘われていないが、そんなパーティーとも呼べない状態のところに自ら入ってくるとは、まぁ理由は分かっているようなものだが。




 「その、ウィル君と同じパーティーになりたいんです」




 ほらやっぱりとにやけるジェイス、ジェイスにとってウィルに彼女が出来るのはいい話である、あいつは彼女が出来たからお前にかまってる暇はないとほっぽる奴じゃない、それに良いやつだし、顔も悪くないし逆に今まで彼女が出来なかったのが不思議でしょうがない。そんな奴を好きなやつが現れた。片方は一般人で片方は貴族。面白いと考えるジェイス。




 「なるほど、それでその暁には?」




 「そういわれると思って、これ」




 と見返りを望んだわけではないのだがどこかで食い違えたのか、ポケットから何やら丸いものを取り出すスミュール令嬢。




 「それは?」




 「命の輝石です、かけらですけど」




 命の輝石、一般市民では到底手に入れることが出来ない品、それは貴族であっても同じと言える。めったに市場に回らない程量が少ないため、販売されたとしても裏市場か皇族が買収してしまう。原石とは言えないものの欠片であっても喉から手が出るほど。原石ならば死んだ者を形が残っていれば蘇生ができ、どんな病、傷をも直す。欠片であれば効力は落ちるものの死んだ直ぐであれば蘇生ができるという。




 「いやいや、受け取れない」




 一瞬受け取ってしまえとよぎった悪感情を押し殺しスミュールの手をポケットへと押し戻す。




 「でも」




 「じゃぁ、武力の天賦のスクロールは持っているか?」




 武力の天賦のスクロールはそれ程高価ではないものの一般人にとっては簡単に変えるものではない、ジェイスは拳術家としてずっと前から欲しかったもの、令嬢ならば天賦の一個や二個持っていてもおかしくはないと考えた。




 「武力ですか。確か筋力と胆力。あ、あと俊敏のスクロールならあった気がしまわ」




 「ならそうだな俊敏の天賦のスクロールで、どうかな?」




 「私こそそんなものでよろしいのならば」




 「じゃぁ契約成立だね」




 そういい宙に白紙を浮かべ契約を成立させた。






 ふと頭に浮かぶ時がある。俺は今どっちの俺なのだ、と。はっきりと過去の記憶で生きているとは言えない、その逆もまた同じ。では今の自分はどちらなのか再度考える。結論は同じである、以外にも自分のことは自分が一番知らないのかもしれない、人から見た自分、それが自分を作ってい。そして自分から見た自分もまた自分を作り上げる。ウィルが見た新島 健。新島 健がみたウィル、お互いがお互いを見合い、理解しあう、二重人格としてではなく、一人の新しい人間として今を生きていると。それを分かる日はいまだに来ない。


 時々理解が追い付かないときもあるが、今はそこはかとなくいつも通りを過ごしていられる。




 「ここは」




 「やぁウィル君」




 何か月ぶりか、再び目の前に現れる少年に一瞬気を取られる。




 「君の生活を見ている感じ、大体僕については理解してるみたいだね」




 問いかけに顔を縦に振る。続けて少年は喋りだす。




 「僕はグラン・レジエルこの世界を創造した者さ。君には僕の世界の調和を図ってほしくてこの世界に呼んだ、ただそれだけ」




 「世界を創造?」




 「そう、ここはあくまで僕の箱庭みたいなものさ、君が出会ったイフリートも今まで出会った人たちも、皆僕が創造した者に過ぎない。あくまでも創造主って言ってもこの箱庭世界においてだけで、蓋を開ければただの一匹に過ぎないけどね」




 淡々と話す少年に何も言えずに質問をぐっと我慢する。




 「まぁこの箱庭もただあるってだけじゃなくて、実は、っとこれは話しすぎかな、はは。質問は、そうだね三つまで聞いてあげる。聞きたいことあるんでしょ?」




何かが詰まっていた喉が開き思いっきり肺に空気を送る、威圧ではない、降伏というべきか。何をしようとも、この世界の誰もが頭を下げるべく存在に俺は息を詰まらせていたらしい。




 「一つ目、こないだは俺を懺悔だのなんだの言ってたが」




 「あぁ~あれね、一応言ってなかったっけ?あくまでもあれは一理由でしかないって」




 「そう、か。じゃぁ七つのヒカリは、集めるとどうなる」




 「感が悪いなぁ、なんで僕が途中で話をやめたと思う?」




 「す、すまん。では今この世界は誕生してから何年たった?」




 「そんな質問でいいのかい?」




 三つの質問、一つ目の質問はあえてこの世界の理ではなく、自分自身、のどに詰まった骨を取り除くための質問。答えは曖昧であった実際に呼ばれた理由ははっきりと伝えられずあくまでも質問への最低限の回答。二つ目の質問ははっきり答えはいらなかった、どこまでの質問に答えられるかそれを知りたかった、結果はこの世界の、いやグラン・ラジエルの真意を付くものについては回答は受け付けていない。では三つ目この条件下において最もこの世界のことを知れる最善の質問だと考えた。


 一つ頷き返すウィルにそうかと答えを返す。




 「約150年だよ」




 約150年、それが真実であるのならば今まで聞いた話の半分以上が彼の作り話になってしまう。しかし、それを聞くことは今の彼にはできなかった。


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