第十四話 ヒカリ その実力 ③

 実際のところ表に出していないだけであってイフリートもかなりの体力消耗をしていた、表立って魔法を使ったのは実に数年、または数十年も前のことだ、あまりのブランクに魔法の使い方を忘れたまではいかないものの無駄な魔力の使い方、魔力の込め方をしてしまったのは炎のヒカリの頂点に立つものとして情けない限りである。それに合わせ上級魔法に属する召喚魔法を使用したのもかなり効いた。


 マナを使用する種族は体内で生成したマナを貯蓄するのに比べヒカリは体外、空気中にある魔力を体内にため込む、下界ではごく少量の魔力しか貯蓄できないため回復までにかなりの時間を要するのだ。とは言っても頂点に立つ統括者であるイフリート、保有魔力全体の数パーセントしか使用はしていないため支障はそれほどでもない。少々疲れた程度である。




 「そういえばイフ、償還魔法を使用した時一瞬だけど元の姿に戻っていなかったか?」




 思っているよりもウィルは注意深くイフリートのことを見ているようだった。実際に召喚魔法を使用した時約六割の力を使ったため元の姿に近い姿になってしまった、でもその場にいた者たちに気づかれないようほんの一瞬だけである。契約者として非契約者に比べそういった小さい変化には敏感になるのは知っていたものの、数値でいえば0.1が0.2に変わった程度、それを注意深く感じていたウィルを警戒せざる終えないと思うイフリートである。




 「確かにあの時一瞬力を強めたのは事実だ、だが、よく気づいたな」




 「そうだったのか?俺全然気づかなかったわ」




 それもそのはず、あの場にいたベリアルですら感じ取れなかったものである。




 「あぁ、ただ力を強めたのはほんの一瞬、それに魔力で威圧を最小限に抑えた。合わせてだが人種やエルフ族は動きに敏感であると聞いた、それ故普段より光を強め視界も覆ったのだがな」




 そこまでしていたのか、ウィルが感じ取ってのはあくまでも力を強めた際に感じた夢の中のイフリートの感覚である、それに関してウィルが否定することもなければ事実を伝えることはなかった。




 「それにお前らが思っている召喚魔法と我が使用した召還魔術は根本から違うぞ」




 前述通り召還魔術は魂の復元のようなもの、あくまでも召還元が既に死んでいなければならない。


 召喚魔法はどうだろうか。




 「召喚魔法は存在する生物と契約を結ぶことにより、いつでも呼び出せるようになる。対象が何であれ、契約を結ぶことが出来れば召喚可能なのだ」




 「ていうことは、イフリートはフェニックスと契約を結んだってことか」




 「無論」




 「じゃぁ、契約を結んだ俺とイフはいつでもお互いを呼び出せるっていうこと?」




 「いや、一般の契約と召喚契約は似ているようで全く別物、服従関係は一切ない、呼ばれた時に手がいてなければ答えなくてよい、どれほどの信頼関係を築くかで変わってくる」




 「なるほど」




 すなわち半分見世物として呼ばれたフェニックスはそれにすら答えこちらへやってきた。イフリートとフェニックスはかなりの信頼関係を築いているのがわかる。




 「今日はこのぐらいにして、明日も早いのだろ?」




 「おっと、もうこんな時間か」




 卓上の時計を見ると既に次の日を迎えようとしていた。明日は通常通り学校である、それに実習訓練。体力回復をしておくべきだとジェイスを自室へ帰し、イフリートと共にベットへと入ったウィル、そう待たずして意識は途切れていた。






 「おはようイフ」




 次の日の朝、遅く寝たからと言って遅刻していくわけにはいかない、いつも通り日の出と同時に目覚め体を起こす。かなり体が作られてきたのを感じる。数か月前に同じよう模擬戦をしていれば次の日は寝っぱなしになることだろう。




 「そなたは横で我が寝ていても何も気にしないのだな」




 実際ウィルも意識をしているかいないかで言われるとしている、寝る位置として窓際にぴったりくっつけたベット、部屋の入り口側を向きながら入り口側に眠るウィルの後ろウィルと壁に挟まれウィル根背中を見ながら寝るウィル、寝相はいいほうだと思うウィルだが願えりぐらいはする、時々数センチまで顔が近くなったり、手が、触れてしまったりと、目が覚めることもある。そこに抑制をかけるのが過去の記憶。妹として思い込むことによって何とか、ほんとになんとかしているだけだ。




 「ただ、おなかに手を回すのはやめてもらっていいかな?」




 「なにそんな至福を否定するのか?」




 「いや、その。あたるから」




 「何を気にしているんだ。我もあのほうが寝やすいからな、まぁ多少は我慢してくれ」




 と、華麗に流されてしまった、確かにぬくもりは心地よいのだが、男特有のあの感覚、あまりにも罪悪感が過ぎる。




 「それとイフはどうしてるんだ」




 「ん、あぁ我も、学校とやらに行こうかの」




 それはまずい。もし仮に通学が許可されたとして、いくら妹や、親戚の子として通じても男子寮にましてや一緒に暮らしていたなどばれてしまえば一巻の終わりである。




 「何、問題ない、あくまでも姿を見せていくわけではないのだからな」




 顕現している状態が楽なだけで透過することも全く持って不可能なことではない、ウィルの今までの行動を観察するときも透過していたのと同じようにすればよいだけ。




 「なに、俺の後ろついて回っていたのか?」




 「あぁ当然だ、上空数千メートルから観察しようと思ったのだがな、どうにも豆粒としか確認することが出来んかった」




 豆粒ですら見えてしまうのが恐ろしい。






 「っていうことになったからジェイス、何かあったら頼むは」




 いつも通り食事をとり教室へと進む、通りかかった生徒に気づかれていないか、気になって仕方がない。何せすぐ後ろに引っ付いて歩いているのだから。ジェイスは全く感じられないようだがジェイスが鈍感すぎるだけというのもなくはない。


 試しにジェイスのほっぺを突っついて貰ったが触れられた感覚もないらしい、完璧なまでの隠蔽だ。




 (だから言っているだろ。問題はないと)




 そして時々頭へ直接話しかけてくるこれで気が散ってしまう。すべてを見透かされたような喋り口調になめるような声が急に聞こえてくるのだ。


 イフリート側はウィルが思ったことは大体が聞こえているらしく声に発せずともウィルとイフリート間での会話は成立するようになっている。秘密の会話みたいでワクワクしなくはないが、それ以上に鳥肌がやばい。




 教室に近づくといつも以上に騒がしクラスメイト達の声が響いている、何やら珍しいことでもあったようだ。




 「なんだろね」




 「さぁーな」




 本日も変わらず時間ギリギリに教室へ入る二人。前の方で固まる男女数名が何やら小動物を抱えているのが隙間から見えた。




 (ほう、獣属か)




 獣属、魔物の中でも人の手によって孵った魔物。魔物の中でもごくわずかに卵を産む者がいる、その卵は珍味として食べられたり獣属として売られたりする。卵の中でも最高級品”クジャクウェル”の卵は金持ちですら買うのを躊躇する高額らしい。なんとその卵から生まれるのは定まっておらず今までにワイバーン種や、デビル種の孵化が確認されている。


 ただ今回抱かれている獣属はあくまでも低級魔物、フルリルのようだった。




 「なんか、あんま凄さが分からないな」




 ジェイスはイフリートに会ったことを普通なこととしてまとめてしまった。まとめざる終えなかった、イフリートに出会うことは決して当たり前のことではない、しかし出会ってしまった以上そういうものとして覚えておかなければ脳の処理が追い付かなくなってしまうのだ。それ故なのか初めて会った獣属の凄みが分からないため普通フォルダーへと入ってしまった。


 またウィルはあの存在以上が自分の後ろにいると分かりきってしまっているため、獣属以上にすごいものを知ってしまい、それ以下の存在として認識してしまっている。


 人間高いものを食べていると安いものをまずいと感じてしまう、それは舌が肥えるから。同じようにヒカリと獣属を比べてしまっていた。


 とそんな考えをしている間にスミル先生が教卓へと就いていた。


 ロン・スミル先生。ウィルたちのクラスを見ることになった担任である。教師の中で珍しいサラマンダー族と人種の混合種である。


 サラマンダーの血を引いた赤い目と赤い髪、そして尾。それ以外は大体人種と変わらないのだが人種には存在しないその尾がとても目を引くのだ。ただそれだけではない、スラっとした長身におとなしめの胸元、足は筋肉質だが柔らかさもある、また整った顔をより一層引き締める赤い瞳。それに合わせ露出の少ない服装と、それがまた良いのである。




 「よぉしお前ら今日も始まるぞ」




 それと、サラマンダー特有の強気な性格。この容姿から発せられる口調では決してない、声も女性の中では太いほうで少しもったいなく思える。ただそのギャップがいいと以外にも人気が高い教員である。




 「「よろしくお願いします」」




 「それと、クレハそいつはなんだ」




 「あ、あの先生この子昨日買ってもらったんです。ちゃんと飼育許可書も出しましたし、授業中もおとなしくさせますので」




 おろおろと説明をする少女に近づくスミル先生、いかにも怒るという態度で少女が持っている獣属に顔を近づけ。




 「なにぃこのこーちょーかわいいじゃん」




 少女から獣属を奪い取り両脇を支えながら抱き寄せる。この結果を想像できたのはクラスの何割程度であるか。少なくともウィルは怒られる、そう思っていた。




 「なに、お名前は?」




 「あの、まだつけてなくて」




 「え、早くつけてあげなよ~」




 「は、はい」




 とものの数分抱きかかえ少女に獣属を返すと普段通りのホームルームが始まった。スミル先生の新たな一面が見えた特別な日となった。

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