第十三話 ヒカリ その実力 ②
思っていたよりもウィル・スレイムは動けるようだな。人間属は他種族と比べ突き出た能力が少なく、平凡なものが多いいと思っていたが、考えを改めるべきか。それにしてもエルフ族のあの女子、炎の実力は確かだな、それに加え風の扱いもそこそこ。なかなか良いものを持っているではないか。それに闇属性、か。
ベリアルとウィルの一対一が終わり少し休憩を挟み、再びフィールドに上がったベリアルを見てイフリートは思った。先ほどの肉弾戦でベリアルから感じた属性は水と闇属性のみだった、しかし休憩を挟み次にフィールドに上がると二属性に加え炎と風の四属性を感じた、これはベリアル自身が炎と風の属性を完全にコントロールできていることがわかる。通常マナが常に体外へと流れ出るのと同時に属性のオーラもマナを伝いあふれ出る。
それを食い止めるほどのコントロールをするにはかなりの時間を費やすもの。習得まで時間がかかる割に見返りはとても些細なもので、相手に属性を悟らせないである、それも大抵の者はそのマナから属性を感じ取ることもできないためごく一部の敵にしか通じない。だから習得しているものはいないとイフリートは思い込んでしまっていた。
「次はイフリートさんの実力を見させていただいてもよいですか」
「ふむ、問題ないが手は抜かせてもらう」
「そうしていただけると幸いです。では」
ヒカリの統括者と名乗るほどの者、全力でこられればここら一帯、最悪スイロン帝国が吹き飛ぶと容易に想像できてしまう。それは魔術に精通したベリアルだからこそより鮮明に分かることである。
「まずは、ファイアでよいか」
ファイア、火属性魔法の中で最も習得が簡単な物、あくまでもヒカリ側が習得が容易なだけでありマナを送るこちら側には関係のない話である。
容易な初級魔術ファイヤーボールとそっくりな魔法である、我々の中でもファイアと同じような認識で存在している。
イフリートが人差し指を立て長い爪の先に魔力を集める。魔力は魔術を使うものにはわからないマナに似た存在。でも確かに違うものが一つ。
「濃縮度が」
それは余分なものが一切含まれていないということ。空気中に散在しないこと、すなわちマナの全てを魔術として放てる。
「こんなものか」
ある程度膨張させた火の玉。指をベリアルの方へ向けると同時にゆっくりと飛ばす。明らかにただのファイヤーボールではない、じんわりと大気中の水分を飛ばしながらベリアルに向かう。ベリアル目線どれほどの恐怖心があるのか、想像するだけでも恐ろしいほどだろう。
結局のところ初級魔術だろうが上級魔術だろうが極めたものが制すのだ。いくら上級魔術とはいえマナの必要量ぎりぎりで発動すれば”発動しただけ”になるよう、初級魔術にありったけのマナを使えば、”発動しただけ”では済まなくなってしまう。
「ウォーターブレード」
その火球に向かい水の刃を飛ばすが虚しくも意味がないようである。これはどうしようもならない、いくら何でも防護服で守り切れるものではないとベリアルは思う。
そうしてようやくあと数メートルへと近づいた時、イフリートが指と指とをこすり合わせパチンと音を鳴らす。と同時先ほどまで目の前にあった火球がはじけ飛び消滅してしまった。無論はじけ飛んだ火花はまるで火球の周りに360張られた透明な壁のようなものによって周囲へと被害は出ていない。
「たかが初級魔法だがな」
いとも簡単に言うがベリアル目線、実際イフリートが放ったものはファイアーボールではなく、中級魔術ブレイクファイアーではないのかと疑問であった。
「いや、あくまでも発動したのはファイアで間違いない、破裂前にちょっといじっただけに過ぎない」
「ちょっと、ですか」
魔術において一度発動したものを別の魔術に変換させることは難儀を強いる。まして発動した魔術を少し変えるなんてありえない話である。それに加えちょっとという意味深な意味。やはり魔術に精通しているとしてもたかが狭い世界においてでしかないということだった。
「まぁよい、次はそうだな、召喚魔法でも行ってみるか」
先ほどのファイアだけでもかなりの魔力を消費したと考えられる。イフリートにとってほんの一部の魔力を使ったのだろうが続けざまに最上位魔術の召還魔術を発動するという。
先ほどは指先に魔力を込めたが今回は。
両手を水晶玉程度の玉を持っているように丸め込み、手と手の間の空間に魔力をため込んでいく。
「来い、フェニックス」
掌からあふれ出るほどの魔力をため終わり両手を空に向かい掲げ空中へと魔力の塊が浮かんでいく、そして数秒後まるで卵から孵る鶏の如く、魔力のところどころから光が漏れ出している。すぐさま周囲へと光が広がり辺りは真っ白になる、一瞬目を手で隠した二人だが手をどかしたその時には既に宙に浮かぶ全身真っ赤な鳥がそこにいた。上空10メートルもの高さにいながら地面に着くほど長い尾に両羽は広げれば客席まで届いてしまうほど。
「いったい、私は何を見ているのだ」
魔術師が行う召還魔術は一度自らの手で殺した低級魔物を召還するもの。だが今目の前に居るものは”神獣”と呼ばれるフェニックスだと言う。
「まだ何か見たいものがあるか?」
「い、いえ満足です。ありがとうございます」
これだけの力を見せておいてなおイフリートは幼女の姿のままである、力を抑えているとは、本当のことだったのか不安に思うウィルだった。
再び休憩を挟むため屋根がある場所へと移動をした四人だがイフリートには休憩はいらないように見えた、逆にベリアルは椅子に座ると肩の力を抜き一度息を吐いていた。肉体的疲労感はそれほどであったが精神的疲労感がかなりたまってしまっていたみたいだった。
「なぁ、これマジでやばいな」
先ほどまで模擬戦をボーっと眺めていたジェイスが流石にというべきか、今までの戦いとは明らかに違うと感づいた。それもそうだろう、二つ名を得るほどの戦いをしてきたベリアルですらあの様子なのだ。ただベリアルとジェイスが抱いた感情は惜しくも一致していない。ジェイスはただ見た目だけ、それだけを見て次元が違うと考えた、ではベリアルは。
「おっしゃる通りです」
いくら今のベリアルがこのまま成長続けてもイフリートの領域には足の一歩も踏み込むことが出来ないだろう。それは根本から違うからである。いくら進んでも元の道が違ければたどり着くことのできない場所であるということ。
「ふぅ」
一息してから立ち上がるベリアルに続き立ち上がるウィルとジェイス、すぐさまフィールドへと向かうのかと思いきやベリアルはこちらを振り向いて頭を下げだした。
「本日はお付き合いありがとうございました」
「ん、もうよいのか」
本日の模擬戦は三回行うと言っていたのだがウィルとイフリートの混合で行うものを行っていない。ウィルにとっても好都合ではあるのだが情報が欲しいベリアル側から不必要であると言われるとは思っていなかった。
「はい、今のウィルさんとベリアルさんの実力で大体把握できましたので」
ヒカリについてある程度の話を聞いて考えたベリアルの答えは的外れだったことが、先ほどの戦いで分かった。イフリートは他者からマナを貰わなくても自分自身の魔力を使用し魔法を発動できるということ。それがどういった意味を持つのか、考えるのも恐ろしい。
「そうか、では帰るとするか」
そういい立ち上がるイフリートの上半身が一瞬乱れた、一見立ち眩みのように。
「大丈夫か、イフ」
「問題ない」
久しぶりに張り切りすぎたかと、呟きながら頭を押さえるイフリートにウィルは左手を差し出した。先ほどの戦いを見てもウィルから見えるのは幼い少女であることに変わりはない、昔の思い出に浸れるほんのわずかな至福である。
「少々遅いくなってしまったな、帰りはポータルを使おう」
コロシアムを出た一行、あたりがそろそろ薄暗くなることだった、地平線に沈む夕日がフェニックスを思い出させる。
ここからウィルたちの住む地区まで歩いて30分強、着く前に辺りは真っ暗になってしまうだろう、少々値は張るがポータルを使って帰ることに決まった。
「イフリートさん、ほんとにやばいんだな」
「何、あれはまだまだ序章にすぎんぞ」
模擬戦を行い疲れがたまったウィルは部屋に戻り直ぐにでも寝たい気分だったのだが、なぜだかベットの上にはジェイスがいる。今日ジェイスがしたことと言えばウィルたちについて歩いただけ、疲れはそれほど。それよりもイフリートについてもっと話していたかった。
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