第十二話 ヒカリその実力 ①
ヒカリの統括者、そのような存在がいるということは予め確認はしてあった、実際に見たり、あったり、その存在を知っている人が知り合いにいるわけではない。ただ今までの文献を読み漁ってきて今の魔術とは全く別物の存在があることに気づいていた、魔術に精通するすべての知識を頭に叩き込んできた数年間を持っても非論理的な存在にたどり着くことは出来なかった。それが今どうだろうか、今まであったことのない属性不明の少年と会ったことがどれだけ私自身にプラスになるのか。プラスどころではない、数年間積み重ねてきた私の全てをいとも簡単に倒してしまうほどの存在が今目の前にいるのだ。
「ところでウィルさん、先ほどイフリート様から権利があると言われましたのですがどういった意味に」
分かりきっている気もするが確認せざる終えない、きっとイフリートがウィルを飼いならしている、力の上下関係的にそれが今たどり着ける結論だろう。
一度イフリートへと顔を向けたベリアルは、不服そうにするイフリートから察しウィルに向き直す。
もしもウィルがイフリートを使役しているのであればどれほどこの先楽に進むのか、そんな数パーセントを望んだベリアルを誰も咎めないだろう。
「あーえっと、契約ってだけなのかな」
頬を搔きながら答えるウィルの横でうなずきながら口を開くイフリートが続く
「実際には契約という名の友好関係に過ぎない、いつでもこちらから切り離そうと思えば切り離せる紙一枚の契約だがな」
つまり、どちらも服従関係ではないということ、ウィルが協力することをイフリートは止めることは出来ないし、イフリートへ協力を願うことも不可能ではないということ。いや実際契約を結んだのはイフリートと私間、つまり契約中はイフリートは極力私への協力をしなくてはならない。
イフリートもそれを分かっていないわけではない、実際掲げる目標は似たり寄ったり。結局パンデミックを抑えたいというもの。イフリートの最終目標はまた別にあるのだが過程において必要なものだったため協力をするのも悪くないと考えたまでだった。
「そうか」
傍から見れば最初から最後まで落ち着いた容姿でいたベリアルだったが実際にはずっと肩に力が入っていた、やっとというべきか力が抜け肩が凝ったのを感じ腕を一度上に挙げた。
「いや、失礼知らないうちに力が入ってしまったようだ。イフリートさんの契約だけで十分なのだろうが、一応契約書も受け取ったわけだこちらも見ていいか」
丸まった羊皮紙の一部分が濡れて滲んでいた。それを見てははっとだけ笑ったベリアルだが、改めて自分のちっぽけさに気づいただろう。
「いやぁ、契約だから覚悟はしていたけど、何もベリアルさんが相手じゃなくてもいいじゃないですか」
契約を済ませ魔術測定本部を後にした一行、次の目的地は既に決まっていた。行事用区画に設置されている、模擬戦闘用施設、通称コロシアムだった。あくまでもここは人と人とが一対一でぶつかり合う場である。すぐ横にある通称”殺”シアムは人と魔物、または集団対集団での戦闘が主であるためそのような名でよばれているという。
コロシアムへとやってきたのは今現在のウィルの戦闘能力また、説明を受けたヒカリを介しての魔法の実力、またイフリート単体での能力を測るためだった。
とは言ってもイフリートとウィルが契約を交わしたのはつい先日の話、ウィルがイフリートを使い魔法を放ったこともなければイフリートがどのようなことが出来るかも知らない。ウィルにとってはいい機会だったのかもしれない。
「早速ですまないが、木刀のみ、魔術も魔法も禁止でウィル君と一対一をやってもいいかな」
ベリアルの二つ名は”獄炎の魔術師”というだけあって魔術において右に出るものは一握りもいない程である。では剣術において。冒険者の中には片手杖とショートダガーを持つものと両手杖のみを持ち冒険に出るものがいる。そのように大抵の者はソードと呼ばれる長剣を使うことがない。一方ベリアルはいくつもの依頼を完遂してきた、それは魔術の使えない狭い洞窟や詠唱を唱える間を与えない魔物を一人で相手することもあった。その間に必要になったのはソードや体術といった魔術師に似つかわしい物だった。それ故人並みに剣をふるうことも拳を突き出すこともできる。
ただの魔術師ではないのだ。
「は、はい」
そういったベリアル型の魔術師を見たことのないウィルは少々気が引けようであった。
「安心して剣をふるってくれ、専用の防護服で肉体にダメージはそれほどないからな」
「ふむ、では我がこの模擬戦を見極めてやろう」
地面を片足でけりながら上空を舞うイフリートが言った。まるで炎をまとう蝶の様に舞いながら。
「我に見とれとるな、始めるぞ」
腰を落とすベリアルに合わせウィルは右足を前に出し、いくらかベリアルよりも高い位置へと顔を置く。剣術おいていくつもの流派が存在するため構え方もそれぞれあって正解は存在しない。お互いに構え終わったところでイフリートが合図を出す。
その瞬間前へ出たのはベリアルであった。低い姿勢を生かし折り曲げた足を延ばし切り風の抵抗を受けないよう低い姿勢のまま、まるで蛇の様に懐へ入ろうとする。
それに対応したのがウィル、今までの経験上魔物との戦いを思い出しながら相手をする。感覚的に懐へ入られるとまずいと察知したウィルはベリアルの進行方向へ合わせ剣を立て右足を踏ん張り左へとスライドする。
魔物も多少の知性を持っているものが大体、今の様にふるまうと自然とウィルの右側へと突っ込んでいく。
だがそこを見誤ったらおしまいである。あくまでもそれが通じたのはまだ幼い知性の魔物たち、今回はウィルよりも数段に頭が回る魔術師。今のウィルの一連の動きを見て何かを察知したのかベリアルは低い姿勢を一気に起き上がらせ避けたのは右でも左でもなくウィルの頭上をスプリングしてだった。
その瞬間ウィルの左側に砂塵が舞う。
ウィルは考えた結果、一つ相手の裏を読み自分が避けた左側にスライドの力を使いながら立てた剣を下から上へと振り上げていた。
「ほぉ振り上げるか、面白い」
長期戦を考えるのならば今の一連の流れはウィルが勝っていた。体力の消耗は最小限の回避、相手の攻撃を受け流す、相手の攻撃を防御する、大幅に回避、攻撃を受けるの順に多いいと言われている、実際運動量的に考えても同じ結果であることが分かっている。
「ッ」
但し今回の勝負は短期戦、今の動きでウィルは感じた、自分よりもはるかに勝ると。次の一手か二手で終わらせないと負けてしまう気がする。
再び最初の状態へと戻った、一連での差し引きはウィルは一つの技を、ベリアルは多少の体力を差し出した。
次に出たのはウィル、一息つき攻撃の察知をさせない。位置的に先ほどより数メートルほど近くなった二人の間。この数メートルの違いで人それぞれ好みがわかれる、先ほどの距離はベリアルが得意としたもの、今回はウィルが得意とした間合いであった。
あくまでもこの勝負では魔術、魔法が禁止。となると。
一気に距離を詰めるウィル。しかしながらベリアルに剣が届く前に上空へと剣を投げ捨てた。
一瞬目を剣へ向けたベリアル、途端腹部に伝わる打撃技。
重みはない、それほどの威力ではないことがわかる。防護服はダメージはないが重みはもろに来る。今のは優しかった。
「はは、まさかだったな」
多少気は抜いたとは言っても、一撃をもらうとは思ってはいなかったのだろう、ウィルの突き出たこぶしを握り微笑みウィルを見つめる。
「い、今のは最終奥義で、たまたまです」
「いや素晴らしいよ、でもその技は実践で使わないほうがいい」
ウィルの繰り出した最終奥義。まさに諸刃の剣に近いものだ。父から伝授したこの技はウィルだからこそ使える技。死を覚悟していなければ使うことは出来ないだろう。何せ剣を手放すのだから。
戦闘中常に集中をする相手と戦うことになる以上実力勝負では上の者が勝つ、その常識を覆せる技の1つ、その諸刃の剣を使うものはいるにはいるが実際ベリアルがあったことはなかった、それは土壇場で、その技の存在に気づけないものが五割を占め、使えず怖気づくものが五割。そのくらい実践中に使うのは難しい。模擬戦だとしても同じだとベリアルは考える。故に二手目で繰り出された諸刃の剣に困惑してしまったのだ。
「そう、ですね」
話が終わったのを見て降りてくるイフリートもベリアルと同意見だったのか頷いていた。
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