第七話 目覚め。中編
メイドに連れられ魔力測定室へと移動した一行、学生二人は再びめったにお目にかからない設備に目を輝かせていた。それもそのはず学校内にある魔力測定室とは訳が違った。
学校の一角に設置された魔力測定室はあくまでも一般市民が簡易的に利用できるよう簡略的に設置された程度でしかない、それにしては置かれていた設備はとんでもないものではあったが。それでは今彼らがいるところと何が違うのか。設備の量、それに伴い部屋の広さ、測定室で働く労働者の人数。測定を行いに来ている人、種族の違いも目に見てわかる。
さすがは帝国内の魔力管理をしている本部なだけはある。親会社、子会社に似たようなもの、やはり親会社にはかなわない。
「早速ではございますが、属性測定室へとご案内させていただきます」
メイドが前方を歩きその後ろにウィル、ベリアルの順で続く。ベリアルには前もって許可を出したため属性測定室への同行が魔力測定管理本部から許可が下りている。逆にジェイスに許可は出ていないため、ウィル個人として許可を出しても同席することはできない。
「後で詳細は話すからその時な」
後ろを向きながらそう投げかけた時にはジェイスは既にこちらに興味を示していなかった。
ドアを開いてすぐそこにある属性測定機、その姿は以前とは似ても似つかない、元からして違う。先日行った際には素材は石で職人に丁寧に磨かれたのかと疑うほど表面は光っていた。では今目の前にあるものは同じものか。否、素材は木、表面は年季の入ったざらざら肌でとてもきれいだとは言えなかった。
しかし次に発せられたベリアルの説明で石板のものとは比べられないことが分かった。
「学校内に置かれていたのはこれに似せた、いわば”レプリカ”みたいなものだ。」
小難しい話であったが、ざっと言えば、この魔力測定器のもとに使われているのは古代エルフ族の村の一角に植え付けられていた魔力測定用の木材らしい。なんでもエルフ族は神にご加護を授かっておりほかの種族よりも属性開花、属性適正、マナの量諸々比べると嫌になるほどの差があり、別名”魔術の精霊”と言われている。そのエルフ族が言う。「この木を使って世界に属性を広めてください」と。それから研究が行われこの測定器が実現できたのは、木をもらって数百年後。そうして完成した測定器が500年以上たってもなお使い続けられているということ。とそんなところだった。
「これなら石板でできたレプリカ製のものよりも的確に詳細が測れるということですか」
「いやこれは属性を診断するのではなく個々の属性に名前を付けているというべきかな」
聞くには、魔力測定は測定ではなく命名のほうが正しい呼び方だということ。今まで数千、数万の属性を測ってきたが似た結果はあっても全く同じ測定結果になった者はいないという、それは十人十色、同じものなど存在しないということになる。但しレプリカ製は今までの結果を元に似たようなものをまとめて十項目に分かれているだけである。あくまでも似ているで分けられているに過ぎない。
「早速だがマナを流していただこうか」
とそこでベリアルがすっと右手を測定機に伸ばす。
「忘れてた、私がまず属性を提示する契約だったな。」
客室で交わした属性開示に関する契約のうちにベリアルの属性を開示してもらうことをウィルは要求した。自分の属性を見せるだけで、かの”獄炎の魔術師”の属性を知れるのだ割に合わない交換であるはずなのにベリアルは快く受け入れた。
石板のものよりいくらか小さい木製の測定器が淡く光を醸し出す。決して弱くはないはずなのに見ていて辛くはない。そんな光が三秒ほど視界を遮り再び測定器が見えた時にはすでに属性が表示されていた。
「獄炎、ウィンデュ、シャン、獄門。」
映し出されたのはその四つ、獄炎が炎、ウィンデュが風、シャンが水、獄門が、闇ってところだろうか。一瞬”獄”好きだなっと突っ込みそうになったが喉元で引き留めた。
「今みたいな感じで送ってくれたらいい、私は三割程度の力でマナを送ったが、弱かろうと強かろうと誤作動を起こすことはないから安心して流すがよい」
すでに属性測定は済んでいるベリアル、映し出された文字を見ることなく、当たり前のよう腕を組んで立っている。
普通に考えれば四つの属性が出ることなんてまずない。けれども彼女は自慢など愚か、四つじゃ物足りないそう思っているように見えた。
前回測定を行うときは一切の不安など存在しなかったが、今回は違う。前回の結果を見れば致し方ないのだが、それでも好奇心がないわけではない。親指と人差し指をこすり合わせ覚悟を決める。
「よし」
すぐ横にいるベリアルに届かない程小さくうなずく。無論ベリアルには聞こえている。最後に握りこぶしを作り目を閉じ、そのまま測定機へと手を伸ばす。
ずっと引っかかっていた、七つのヒカリを集める。それがどういう意味か。今までヒカリという単語を聞いたことはない、ではヒカリとは何か。そこに加わる「null」。それを見て絡まった糸が解けた気がする。七つ、それは炎、水、風、土、闇、光、無。ヒカリは魔術を発動する際に介する、もしくはそれに準ずるもの。過去の記憶と絡み合わせてそこまでは推測できた。あとは決定打となるものがあれば。
マナが指先から漏れ出すのを感じたその瞬間、瞼を瞑っていたにもかかわらず、真っ白な光が目の前を覆いつくした。
「うふふ、初めまして」
真っ白な世界が終わらない、どこからか女性の声のようなものを感じるが。ベリアルの声であると勝手に認識している。
「新島君、こっちを向いてちょうだい」
光が晴れるのを待つことしばし再び聞こえてきた女性の声に反応せざる終えなかった。後ろに顔を向けた瞬間、声の主が姿を現した。
白い光の中で赤い炎が渦を巻く、周囲に火花を巻きながらゆっくりと渦巻く炎が弱まり、中から着物姿の女性が一人、こちらを見てほほ笑んでいた。
全体的に赤い姿、腰ほどまで伸びる赤い髪の毛はやや毛先が上に上がっており、目元から鼻先に向かってシャープな顔立ち、奇麗な赤色に白色のコンセプトを利かせた着物を着、腕に通した頭の後ろで浮かぶ羽衣が優雅に舞っている。ウィルよりも10cmほど高い身長で足は長く全体的に細身。どこから見ても美女が居た。
「今日は挨拶がてら見に来ただけだから」
誰何する前に彼女の細い人差し指が唇に当たる。
「私の名前はイフリート、炎のヒカリを統括するもの、少し怖い名前だけど”イフ”って呼んでくれたらうれしいな。」
彼女の指はまだ唇に触れたまま。そのまま淡々と彼女は話し続ける。
「とある御方の命令であなたとの契約をお願いされたのだけれども、私もあなたに興味があったから。あぁまだ詳細は話さないほうがいいかもしれないわね。」
一度指を自分の顎もとに戻し首を傾げる。
その隙に質問はできたはずなのだがウィルは黙って彼女の考えがまとまるのを待つ。
「そうねぇ。今日は特に話すことないかもしれないわ。また今度しっかり話してあげるから。それまで待っててくれるかしら」
無意識にうなずく自分に気が付かない。もし唇を抑えられていなくても、言葉を発することができなかったと知る。一見一切の脅威を感じない彼女、優しい目をしているし、淡い声色、でもウィルは確かに感じてた。彼女の奥深くに眠る負のオーラを。それを感じてしまったからには逆らうことも、言葉を発することも、何もかもが制限されてしまう。
ウィルは聞くこと以外に何もできないまま彼女がその場を去るまでじっとしていた。次に意識が戻ったのは白い光が晴れ、属性測定室に戻った時だった。
「ほうこれは面白い」
先ほどの出来事に戸惑う横でベリアルは測定器を見つめながら目を細めている。
「ウィル君、君私と本格的に契約を結ばないかい」
ふいに出たその一言、その一言で一度我に返るがまた頭が痛くなるのを感じた。次から次へと情報が待っている、この二週間でどれほどのことが起きればいいのか、とそんなことを考える余裕もないほどに。
右手で頭を抱えながら測定機に映し出された文字を見る。
「・・・null」
「ほうヌルというのか」
この世界で一般的に使われている言語とは違う、ウィルが読み漁った文書にも一度も英語が使われているところを見たことはない。それはベリアルであってもだ、実際英語を見たのは今日が初めて、その初めてを見せられたからこそ、彼女はウィルと契約を結ぶことを提案した。そしてたった今自分すら読めなかったnullという単語をサラっと言い放った。彼はただものではないと彼女の中で何かが叫んでいた。
「君が求めるものは何でも出そう、そうだな金も名誉も国にすらも上げてしまおう、それほどのものが君の中に眠っている。」
「そんなにいきなり言われても、」
「まぁそう動揺なさんな。君はただ契約書にサインをすればいい、それだけでいいんだ」
落ち着いた印象を持っていたベリアルが乱れる。どうしも契約をしたいその一心である、自分が今はしたないなどどうでもよい。
契約を行うならばベリアルとウィルの二者間のみで行いたい、これほどの逸材国も黙ってみているはずがない、いくらベリアルでも国に太刀打ちできるはずもなくその場で国とウィル間での契約が成立してしまうだろう、そうならないため公になる前に契約を組む。契約を破棄する場合は本人の同意のもとでしか行えないため、国が口うるさくいってもウィルがうなずかない限り契約はなくならない。契約を組んだ後そのことについて考えればいい契約前に国にばれると話にならない。無論契約後も公にならないことが一番である。
「少しだけ考えさせていただいてもよろしいですか?」
この場で契約を成立できるのが何よりだがベリアルもそこまで鬼ではない、急であり、決して薄い内容の契約でもない、未来の魔術に影響がするほどだから濃すぎる内容である。それを今この場で決断しろと言われ果たして自分はその場で答えが出せるのか。少なくともベリアル自身はウィルと同じよう考える期間を要求するだろう。
「分かった、それでは四日後、先の客室で答えを聞くとしよう、四日もあれば十分であろう」
今のウィルにとって四日はあまりにも短い、考えることが多すぎるためだ。ただここで自分が先延ばしをお願いできるような立場ではないのも分かっている。一つうなずき四日後再び会うことにした。
その後の測定も前回同様なにも分からなかった。前回と違う点は測定をしなかったから分からなかった、と測定をしたのに分からなかったの違いだけだ。同じ意味にも聞こえるが天地の差がある。出来るけどやらないと、出来ないからやらないと似たようなところだろう。
そうして帰路につく頃にはすでに地平線はオレンジ色に染まっていた。
「ウィル君、四日後これを持ってくればよい」
手渡されたのは一枚の羊皮紙、奇麗に丸められ中心を一周赤い糸で巻かれている。羊皮紙など安値で買えない、これを手渡されたということは、あちらは本気だという意味がこもっているのだろう。
「分かりました。では四日後にまたお会いしましょう、失礼します」
丁寧に一例をし踵を返し長い道のりを歩き始める。
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