第五話 魔力測定 参
全ての解析が終わったのか石板全面に映し出された古代文字は次第に薄く消え去っていく、ただ消え去るだけではない、しっかりと現代でも使える言語へと変換を行ってくれているのだ。薄れていったかと思えばまたすぐに文字が映し出されていく。
先ほどまでは中心を軸にしていたため読みずらいだろ、と思う映し方をしていたが次に映ったのはしっかりと下線部のついた向きがそろた状態だった。
「nullってのは間違いじゃなかったみたい、だな」
項目はすべてで十項目、それぞれの属性とそれぞれが派生したもの、また情報がない新しく発生した属性、またはそれに準ずるごくまれな属性と。主な属性についてはしっかりとつづられているが曖昧なものが二つ三つある。まぁすべてをここで解析できるかと言われたらそれほどの技術も道具もないためこれが今の世界の限界なのだろう。
ただ気になるのは、そのどの項目にも当てはまっていないということ。
当然石板をどう読み解けばいいのかウィルにはわからない。分からなくはあるものの推測は可能である。
「石板のメンテナンスも終わったって言ってたしな」
当然石板事態に不備はない。となると、この石板が理解できない異常事態が発生した。またはこの石板にマナを送りすぎたせいで動作不良を起こした。まぁ後者が有力だろう。
もう一度行うために魔術師を部屋に招く。当然ウィルが適当にやってうまくいくものではない。
「これは、、ちょっと待ってくださいね」
少々慌てた姿を見せた魔術師はすぐさま外へと戻って行ってしまった。
時間をおかずに出ていった魔術師が戻るのに続いて一番豪勢なローブを着た魔術師が入ってきた。何も言うことはなく石板を見つめる魔術師、あごに指をあて眉をひそめていた。
数多の魔力測定を行ってきた魔術師たちだ、大体の異常事態は一目見れば解決する。
でも今回はどうだろうか、少なくとも水準以上の力を持っているだろう、ウィルに付いて入った魔術師はこの状況にあったことはないようだ、では一番豪勢で四人のなかで一番知識を持っているだろう魔術師は。首を傾げておて上げ状態である。
ただこんな状況でも声1つ荒げないのは測定を任せられるだけはある。
「属性については再度、魔術測定管理本部で測定を行いますので、本日は属性測定を除くその他の測定を予定通り行いましょう」
後日になるのも致し方ない。と思うのが道理だろう。当然がっくりとするウィルだが顔には出さずに二つ返事で魔術師の後ろに付いて次の測定装置まで移動を始める。
案内されたのは測定室で一番目立っていた巨大な鏡の前だった、測定するもの、使用方法は至って簡単であった。
まず測定されるものはマナの総量すなわち生まれ持ったマナの最大値量である、何度も説明する通りマナの最大値は生まれた瞬間に決まる。実際には生まれて直ぐはマナを持ってはいない、ここ、スイロン帝国でなされた研究結果ではマナは人体への害があると公表していた。実際にマナにのまれ暴走を図ってしまう成人男性や残念にもそのまま他界してしまう赤子や子供の事例が過去数件上がっている。
マナの総量は器によって変わってくる、器が大きければ貯蓄できるマナの総合量も増えるのは当たり前、人それぞれマナの貯蓄スピード、回復スピードは変わってくるが、早いといっても加減がある。いくら回復が早かろうとも計量カップ程度の器を持つものが酒樽ほどの器を持つ回復が遅い者に勝ることはない。結局のところ冒険者は万全の状態で戦うのが基本なのでマナが回復しきった状態でやりあうものである。一度にどれほどのマナを流しだせるかが重要なのである。
そのマナの器を図ってくれるのがこのバカでかい鏡だということだった。
「鏡の前に立つだけって言っていたよな」
使用方法は単純明快鏡の前に立つだけである。
一度カーテンに腰掛ける少年に目を向け唾を一度飲む。
「よし」
一歩前に踏み出し鏡を正面に見構える。その鏡は”普通”ではないが、鏡に映るものは至って普通のウィルだけ。そう思ったのもほんの一瞬。次第に鏡に映るウィルの心臓付近が淡く青色に光始める、ウィル自体一切の違和感はなく、鏡の中だけの出来事のようだ。
「はい、測定が完了しました」
えっ、と拍子抜けした声を出したウィル、鏡の前に立ち淡い光を見た以降何の変化もなく測定が終了した。先ほどの属性測定ではあれほど派手な演出があったのに、マナ測定はあっけなく終わってしまった。
「そうですね、ウィルさんのマナの総量は大体1500~3000程度でしょうか」
鏡に映し出されたのは淡い青、魔力測定を行う魔力測定管理所が出したマナ水準表では1500~3000程度の総量と定められている。また青よりいくらか白くなると500~1500、光らない場合それ以下となっている。魔力測定管理所が出した平均によれば軽く黄色く光る3000~4500ほどの総量らしい。ウィルは平均より少し劣る、ただ決してその量だから冒険者になれないということではない。
「うーん、」
ちょっと気に食わなそうな顔をしたウィルだが仕方のないことである。鍛えて増えるなんてことはまずありえないのだから、生まれた時の器の大きさはこれ、とそう括るしかない。
淡々と過ぎていく魔力測定、マナ測定の次はマナの濃度、マナの回復量と調べ本日は終了した。本当ならば属性適正と、属性調和性を調べるのだが属性がわかっていない以上調べられないとそれもまた後日となった。
「いやーウィル、びっくりだったな」
測定が終わり次第解散を命じられたため、ほとんどの生徒は寮へと戻って行っている、そんな中、最後の生徒が終わるのを廊下で待つウィルとジェイス。この後に待っているのは待ちに待った設備の観察だ。一通り見たものの細部までしっかりと見たわけではないため、まだ彼らの欲は満たされていなかった。
「ウィルが淡い青で、俺が淡い赤。仕方ないさ生まれた時に決まるのだから」
平均よりも高いマナ総量をたたき出したジェイスが嫌みの様に口に出す。幼いころから一緒にいただけあってその程度ではなんとも思わないのがウィルとジェイスの関係である。
「それにしても、属性がわからないってそんな事例今まであったか?」
淡々と一人で話を進めるジェイスと裏腹に、今日のあの単語「null」が何だったのか、ずっと不思議に考えるウィル。
やはりあれはマナの送り方が悪かったのだろうか。それとも本当に何かあったのか。あぁ後日とは言われたけれどもはっきりとした日にちを教えてほしいよ。
ウィル、新島健の記憶が戻って約一日が立った、もともと環境や物事に適応するのが上手かっただけあり、この突発的な環境変化に適応するのはかなり苦労したもののそれなりに、頭の整理はついた。基本的に一日中ジェイスの隣にいた分そこまで考えなければならないことがあったわけではないが。事情を知らない人間と一切かかわらなかったというわけでもない。第三者からすればどんな感覚かわからないだろう、ただ思っている数倍本人は苦労した。いやこれからはもっと苦労が続くことだろう。
「お待たせ、この後は誰も予約取っていないから、一時間くらい見てもいいよとのことだったよ」
部屋から出てきたサラ博士に声を掛けられ考え事を一時中断する。考え事をしていてあれほどのものを見逃したとなるとクラス内で誰から罵声が飛んでくるか分かったものではない。
ひとまず今を楽しむことを決めたウィルはジェイスの後ろを追って、再び不思議な廊下へと入っていった。
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