第三話 魔力量測定
「皆さんおはようございます」
一日休んでの登校、記憶が戻ってからの初登校である。なんだか久しぶりの学校への登校な気もするがしっかりと現世の記憶もあるため複雑な感情が頭の中で飛び交っている。
今朝ジェイスと朝食を取っていた時、クラスメイトの幾人かが話しかけてきたが当然クラス内では休んでから初めて会う人のほうが多いい。俺が倒れた時はすごい大騒ぎだったらしい。聞いた感じマナの過剰反応を起こし周囲に風をもたらす、そんな生易しいものでは収まっていなかったらしい。幸い周囲にはジェイスとサイレンス侯爵家令嬢のサイレンス・スミュールや爵位の高い基礎訓練をすでに終えているものが集まっていたため自衛だけでなく周囲へのマナの拡散を抑えてくれていた。
まぁ俺個人のマナの総量がそんなに高くなかったのも幸か不幸か、大騒ぎではあったもののけがを負ったものが一人もいなかったことにも納得がいく要因がそろっていた。
「ウィル君今日はあえてうれしいよ。その後の調子はうん、大丈夫そうだね」
彼女はうちのクラスを持つことになったスイロン帝国騎士団三番隊魔術師部隊副団長を務めているティル・シャステル先生。
かなりの美貌で背も高い、やや細身で、そのおかげか女性らしいところはしっかりとしている。腰付近まで伸びる琥珀色の奇麗な髪をなびかせる彼女は学校内一ともいえるほど人気で裏では高嶺の花とも呼ばれている。
そんな美しい容姿を持つ彼女、やはりというべきか戦場へ出てもその気高さはなくならないようで「舞い散る花びら」、「踊る妖精」、「神のほほえみ」なんて言われ方をしているらしい。
彼女が務める三番隊魔術師部隊、三番隊だからと言って上から三つ目その程度、そう思ってしまったのなら仕方がない、しかし実際のところといえば。スイロン帝国総人口約3000万ほど、この中から約数百名ほどしか選ばれないスイロン帝国魔術師部隊、うん十万人に一人二人しか選ばれない、より良い魔術師を求めるために審査もなかなかのもので絶対に数百名の魔術師が常備しているわけではない、部隊で動くもの、一人が足をひっぱれば部隊はそれを中心にもろくなった岩の様に崩れてしまう、少なくともスイロン騎士団ができてからどの隊でも膨大な被害を受けたという事例はないが、いざそういったことが起きた時、ああしてればよかったそれでは済まないことである。
その副団長を務めているのだ、どれだけの実力、統率力、思考力があるのか今のウィルでは測りきれない。今はじっと彼女の話を聞くことに集中を置いている。
「あらウィルご機嫌よ、ご無事であって何よりよ」
「スミュール令嬢おはようございます」
「もう何回言えばよいのかしら、そんなに畏まらなくてよ」
つい最近の席替えで隣の机になったスミュール令嬢、なぜか俺の席は変わらなかったのだが彼女が横の席で今は良かったと思っている。世間話ができるほどの仲になったおかげで実習の際すぐそこで授業を受けていた、彼女もマナの拡散を抑えてくれた一人である。
「先日はご迷惑をおかけしたこと申し訳なく思っております」
過去の記憶が足を引っ張っているのか言葉遣いがあやふやなのを彼女はふと疑問に思っていた。まぁ疑問に思う程度相手に質問を問うほどではないと彼女は片手をこちらに向けて前へ向き直った。
中途半端な言葉遣いを放った当本人、間違いなく過去の記憶の話し方が足を引っ張っていたのだがそれだけではない。
まて、いやマジで存在したのか。
何が、それはついさっき話していたサイレンス家令嬢スミュールのことである、現世の記憶が頭の中で当たり前のようにしていることが過去の記憶が気に食わないのか頭の中で討論が行われている。
スミュールの身長はクラスで前から数えるほうが早い、人間属の中ではかなりの低身長といえるだろう、様々な種族がこの学校へ通っている、その中で身長の低い種族、獣性族、様々な種族がある中でも珍しい女性しか生まれない種族である、ぴょこんと垂れ下がる耳を持ち、小さな顔は大人になっても変わらずずっと子供の様に幼く見える。そんな獣性族を抑えて、とは言えないがどんぐりの背比べともいえるほど獣性族とは背の低さで張り合っている。
背が低い、それだけではない、まだ12に満たないと過去の記憶からすれば年齢は下のはずなのにも関わらず、気品のある顔立ちが年齢までもをごまかすほど整っている。大人びた顔にコンセプトをかけるかのように頭の左右から延びる地面につきそうなほど長い、縦巻きの髪。奇麗な黄金色に光るそれはどうすればその形を維持できるのかと物理学がひん曲がった形をしていた。
それを見たとたんに過去の記憶が黙っているはずがない。大人から子供、女性男性、もう誰であっても憧れたことがあるだろう。そう彼女は縦ロールだった、今まで見たことがないほどにしっかりと、根本付近は軽くこぶしが一つや二つが入るほどの空間ができており先端に行くにつれて徐々に巻き数が増えていっている。
今までは令嬢ならば少なくはないそれを当たり前かの様に思っていたのだが、否現世の記憶は。その記憶を持っていてこれほどにまで驚くとは。
脳内戦争は過去の記憶が旗を掲げたようだった。
「なぁウィル、お前ずっとスミュールのこと見てなかったか?あれか?」
「ジェイスいいから黙っててくれ」
「へいへい」
午前の授業が終わり昼食を取った後、朝食を取っているときにジェイスから聞いたのだが午後の授業では魔力測定が行われるという話だった。うわさに過ぎなかったがどうやらそれは本当のようで集合場所は第三校舎の二階北側の魔術師たちがよく出入りする魔術測定室だった。その教室では学校内の生徒だけではなく一般市民でも冒険者になる人は受けることも可能だ、ただ測定にはかなりの多額の資金がかかり冒険者になろうという一般市民の中で測定を受けるのはごくわずかしかいない。
大体こういうのは出席番号やら名前順で順番が決まるだろうがこの世界では名前なんかで順番を決めていると、どこから何が来るか分かったもんではない、今考えると恐ろしい限りである。順番が決められてないなので自主的に早く来たものから始められるそういったルールになっている。
ジェイスとウィルは魔力測定をウキウキで待ち望んでいた、入学前から魔力測定ができるとは聞いていたがこんなに早いとは思ってもいなかった。早く受けられるなら、それに越したことはない。
当たり前だが俺やジェイスは下級市民、今まで学校に入学する為だけに貯金を続けてきた、魔力測定は愚か、食費にすら金を使うことを惜しんでいた。そんな生活を送ってきて今年で12年、今まで楽しくは生きていけたがやはり手に入らないものはどう頑張っても手に入らない。体を壊しても自然治癒で治すしかなく、ちょっとお出かけ、と他国へ行くことも、いい装備を買って狩が楽になれば、なんて今まで何度も羨んだことがあった。無理なものがわかっているから口に出すこともないがほしいものはほしい、それが人間というものだ。
その一つに魔力測定も含まれていた。やっぱり主観的、客観的に自分を評価しても世界共通としてのランクがどのくらいかは知っておきたいものであり、気になるものであった。
ずっと前からやってみたいと思っていただけある。一番最初に魔力測定室に到着したのはウィルとジェイスだった。
「あら、あなたたちが一番ね。早速測定に入ってもいいけどみんなが来るのを待つかしら?」
教室の前で佇む白衣を着た女性は魔術の原理を主にマナ、調和、魔術など様々な問題に名乗りを上げるスイロン帝国魔術研究第一任命者フィリウス・サラ博士である。あごのラインでぱっつりと揃えて切った髪はサラサラで漆黒の様に黒く、顔つきは少し幼く、目じりが少し下がっている。その真下にあるほくろがチャームポイントです、とゆったりとした口調で入学式の日に自己紹介をしていた。
先生ではなく、学校関係者ではあるが、この学校で唯一愛らしい、そんな言葉が合う女性だろう。何せこの学校には騎士や魔術師として働いた経験のある人たちしかおらず、そのすべての目はまっすぐ前を見る戦士の目をしているのだから。
ぬったりと耳に入ってくる声に一瞬意識が飛びかけたがハッと我に返り今から測定をしていただくようにお願いをした。
(サキュバスか何かなのか?)
直感で彼女の種族はもしかしたらなんて、ただの妄想である。
「ちょっとちょっと、あの少年過去でかなり狂っていたって聞いたけど全然じゃない」
「現世の記憶もかなり鮮明にはっきりとした濃い時間だったからの過去とうまく調和しておるのだろう」
「まぁ僕はどっちでもいいかな、面白ければ」
雲のはるか上空で行われる会談、目には見えない床があるかのように地面に座るのはあの時の少年と男女、周囲を見渡す限り青い空が見て取れるが、しかしどこか空間が歪むよう断片的に発生する無の空間が異様に感じる。
丸い卓袱台を囲むように座った三人は真ん中に置かれる水晶玉をのぞき込みながら世間話に花を咲かせていた。
「それより、イフリート、ウィンティア。まずはお前たちにあの少年と接触してもらおうと思うのだが」
賑やかな話題から打って変わって少年は一度瞼を閉じると、赤い羽衣を着た赤い髪を持つ女性、背の高く全体的に透き通ったイメージを持たせる男性を順にみて、一呼吸を置いた後問いかける。
すぐさま少年の変化に合わせた男女、その一つの動き、対応でどれだけの力を持っているのかは素人目からでは理解できないだろう。ただそこには確かに長い時間を経て蓄積されていった彼らのすべてが表れていた。
「グラン様は我らの導き手、あなた様の命令聞き入れました」
「御意」
忠誠心を表した赤い女性。言葉一つで足りると発した透き通った男性。それぞれはこの世界の創造主であり破壊神である「グラン・レジエル」に忠誠を誓った。
すぐさまに立ち上がる二人、男性は東側へ、女性は西側へ互いに歪んだ空間へと手を伸ばすとすでにその場にはいなくなっていた。
「はぁ、少し忙しくなりそうだな」
ウィル指しては新島 健、彼が本来この世界に呼ばれた理由、今はまだ少年の口からいえることは「この世界のため」ただそれだけ。それをすべてのものに伝えていいのか。それもまた違う。当本人にすらも「この世界のため」という普遍的で曖昧なことすらも伝えられない。
懺悔の気持ち、それは確かに間違いなく彼を転生させた理由である、がそれが正しい理由ではない。転生をさせるにおいての一つの理由でしかない。理由など何でもよかったが偶然というべきか、彼が納得できる”言い訳”を彼が持ち合わせていたに過ぎなかった。
再びため息をついた少年は彼らと同じように時空の空間へ向かう、否、断片世界が彼に近づき彼を飲み込んだ。
先ほどまで彼らがいた空間、実際にはその空間ごと無くなっているのだが、元の澄み切った青空が広がっていた。
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