第7話 いじわる
月明かりが窓から差し込み、薄暗い部屋の中を照らす。
俺はそっと深呼吸をして、激しく動く鼓動を抑えるよう努力する。しかし、自分の真横に葵衣がいると言う事実がそれを邪魔する。
普段から防汚魔術を展開しているため、汗臭くはないはずだが、それでも風呂に入らずに恋人とベッドで横になると言うのはなんとも複雑な気分だ。
2人が寝ているベッドは所謂クイーンベッドというやつで、1つのベッドで寝ているが、そこまでくっついているわけではない。ただ、それでも2人で同じベッドで寝るきっかけを作ってくれた宿屋の娘には非常に感謝している。
明日、あの子に会ったら何かお礼をしよう。そんなことを考えていると、湊斗の手をそっと包み込むように葵衣が触れた。
その手に引き寄せられるように静かに葵衣は湊斗の方に少しだけ身を近づける。そして、
「まだ起きてますか?」
葵衣は仰向けに寝ている湊斗の方を向き、耳元に顔を近づけてそう囁く。
「起きてるよ」
湊斗は葵衣の方を向きそう答える。葵衣の目を見てそう答えると、少し葵衣は恥ずかしそうにして視線をそらす。
「お、起きていたんですか」
「枕が変わると寝れないタイプなんだ」
「そうなんですか!?現実で枕が変わると寝られない人って本当にいるんですね」
「冗談だ。ちょっと考え事をしていただけだよ」
「もしかして、私のことですか?」
「いや、それとはまた別の事だ。王宮の奴ら。そろそろ宝物庫にある国宝が偽物にすり替わってることに気付いたかなーっと思って」
「え?国宝盗んでたんですか!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「兵士の人から、お金を少し盗んだとしか聞いてませんでしたよ!?」
「俺の大事な嫁を杜撰に扱った罰ってことで。それに、先に俺たちを拉致して監禁してきたのはあいつらだから」
「まあ、それもそうですね。転移魔術で呪いをかけて来るような人達に遠慮なんてする必要はないですね」
「俺は葵衣のそう言うところが好きだぜ」
「え、あ、ありがとうございます」
突然の湊斗の言葉に、葵衣はすこしテンパりながらそう答えた。
「突然、そう言うこと言うのはずるいです」
「手を繋ぐのはいいのか?」
「それは……その……っあ!そうです!昔から繋いでましたからセーフです!」
「俺、その昔にプロポーズされたけど?」
「っ……………………」
「そうか残念だな〜。まあ、嫌ならもうしないけどなぁ〜」
俺はすこし大袈裟にそう言ってみた。
「い、嫌とは言ってないですよ。ただ、ちょっとドキってしてしまって…………もう。分かってるくせに。湊斗君のいじわる」
「ごめんごめん。葵衣の反応がかわいいからさ」
「もう、そう言うところですよ」
葵衣は顔を赤らめながらそう言った。
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