第8話 日差し

 窓から眩しい日差しが差し込んでくる。


 重たい瞼を開き、目を覚ますと制服姿の葵衣が寝息をたてている。無防備なその姿は、魔術以外の全てのことを完璧にこなす葵衣の姿を知るものなら、思わず二度見してしまうだろう。


 無防備な葵衣をじっくりと眺めていたいところではあったがそれをぐっと堪えて、湊斗はベッドから起き上がる。


 部屋の隅にかかっている時計に目をやると、時計の針は、7を指していた。


 ふと、窓の外を見ると、大通りは人で溢れており、活気に満ち溢れている。


 ある程度身だしなみを整えて、部屋から出る。

 部屋を出ると、昨日の少女が朝から忙しそうに駆け回っていた。


「おはようございます」


 湊斗に気づくと足を止め、ペコりと頭を下げて挨拶をした。



「おはよう。忙しそうだね」


「そうですね。ですが、忙しいことはいいことだと私は思っていますので!」


「仕事中にすまない。この辺りで貴金属を買い取っている店を知らないか?」


「貴金属ですか?確か商業区の端っこにあったはずですが……すみません。その辺りの知識はあまり詳しくなくて」


「いや、それだけの情報があれば十分だ」


 俺は少女に金貨を3枚握らせた。


「これは」


「情報料だ」


「こんなに頂くわけにはいきませんよ」


 少女は驚いた声でそう言った。

 紙幣の存在しないこの国において、金貨は1枚1万エン。

 平均月収が8万エンのこの国にではチップの金額にしては多すぎるため、驚くのも無理はない。


 湊斗も普通ならこれほどの額を渡すことはないが、この少女にはすごく感謝しているため、多めに渡しておいた。


「貰えるものは貰っとけ。『転移』」


 少女に金を返される前に俺は商業区に転移した。


 あの後、城からパクってきた国宝の一部を換金し、市場で紙と新聞、コーヒー(?)を購入し部屋に戻ると、ちょうどその時に葵衣が目覚めたようだ。


「おはよう。昨夜はよく眠れたか?」


「おはようございまふ。……しゅみません、わたし朝に弱くて……」 


 ふわ〜と大きなあくびをすると、ボサボサの髪を整え始める。「お手洗いにいってきます」と言って、部屋を出た葵衣だが、しばらくしていつもの顔に戻って帰ってきた。


「お待たせしました」


「気にすることはないさ。特に急いでいるわけでもないしね。まあ、この国からはさっさと出た方が良いみたいだが」


「そうなんですか?」


「いやー、俺が国宝盗んだのバレたっぽい。さっき買った新聞の一面を飾ってるから。新聞に載ってる犯人の特徴がどう見ても俺と葵衣なんだよね」


「まあ、予想はしていましたが、それはまずいですね」


「隣国については昨日調べてるから。今日中にはこの国を出ようと思う」


「でしたら、今日の予定は……」


 葵衣そう言いかけた時、どこからかグゥゥと音がした。


「とりあえず朝飯でも食いながら話そうか」


「…………はい」


 葵衣は小さくそう答えた。

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