第6話 宿泊

 あの後、俺たちは一度部屋から出て、1階の食堂で夕食を済ませたのち再び部屋に帰ってきた。


 風呂に入りたい所だが、女将に聞いたところ近くの銭湯は今日は臨時休業のようで、残念だが今日は風呂に入れそうにない。


 俺はそのことを嘆きながら椅子に腰掛け、図書館から借りてきた本を読んでいた。この国の図書館は担保としてその本を買えるほどの物を渡せば貸し出ししているとのことだったので、宝物庫からパクってきた国宝の宝石の1つを渡しておいた。


「うーん。思っていたよりかは発達してるなこの国。王政だから産業革命前ぐらいかとおもっていたが、蒸気機関は一応あるみたいだし」


「魔法、もとい魔術が一般人にも知られているのが大きそうですね。科学技術は地球基準だと500年前ぐらいな気がしますが、エネルギー問題を全て魔術で解決しているみたいです。後は魔獣なる存在の影響も大きそうですね。魔石と言う特殊な石を持っていてそれをエネルギーとして使ってるみたいです」


「なるほどな。化石燃料なしで蒸気機関を作ったのはそう言うカラクリがあったのか。それにしても魔法と魔術の違いとか、魔獣がどんな生き物かとかの気になる情報がどこにも書かれてないんだよなー」


「基礎研究という概念自体が存在しないみたいですね。大学が出来たのが最近みたいですし、仕方ないかと。魔法と魔術は解明されてるかどうかで使い分けてるみたいです。原理がわかっていれば魔術。分かっていないなら魔法みたいですよ」


「原理がわかってない魔術を使うとは正気とは思えんな」


「まったくです。私としては下水道があることがかなり衝撃でしたね」


 2人はそのまましばらく会話を続けた。小一時間ほど経過し、しゃべることがなくなった時だった。


「ふぁ〜」


葵衣が大きなあくびをした。


「すみません湊斗君。眠たくなってきてしまいました。明日もやることはありますし、今日はこのぐらいでお休みになりませんか?」


「そうだな。そろそろ寝るか」


 湊斗の返事を聞くと葵衣は先を立ち、ベッドに向かって飛び込んだ。


「それじゃ、灯りを消すぞ」


「ん!ちょ、ちょっと待ってください!湊斗君、まさか椅子で寝るつもりですか?」


「何か問題あるか?ベッドがひとつしかないんだから仕方ないだろ」


 その言葉を聞くと、葵衣はポカンとして、部屋を見わたす。そして、やっとベッドが1つしかないことに気がつく。


「で、でしたら、私が椅子で寝ますよ。次期当主様を差し置いて、私が贅沢するなど許されません!」


「いや、いいよ別に。ここ地球じゃないし。それに俺は1つしかないベッドを譲れないほど器の小さい男じゃないよ」


「いえ、私もこれでも御三家のはしくれ、次期当主である湊斗君を杜撰に扱うなどできません」


「家のことは気にしないんじゃなかったのか?それに、俺は2人のときはそういうのは無しにしたい。葵衣とはあくまで対等な関係でいたいと思ってるから」


 湊斗の確固たる態度を見た葵衣は少し考えたのちに、決断を下す。


「分かりました。それならいい案があります!」


「なんだ?」


「その、い、一緒に寝ましょう!」

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