第5話 手
図書館が閉園の時間になり、2人は宿屋を探しつつ街を歩いていた。
そして、湊斗は今、大きな決断を迫られていた。
葵衣と手を繋ぐべきかどうかである。
2人は婚姻関係である。しかし、その過程でのお付き合いをしていない。
これは2人にとって大問題だ。なぜなら、2人共恋愛経験と呼べるものが全くないのだ。
本来、御三家の政略結婚であれば、その役割は子供を作ることと結婚することであるため、時期当主である湊斗が葵衣に気を使う必要はない。葵衣は立場的に湊斗の命令に逆らえない。
しかし、今の湊斗は互いのことを愛し合う夫婦を目指している。葵衣が胸を張って、自身を持って生きていけるように彼女を守ることを第一に考えている。当たり前だが、葵衣が嫌だと思うことをするのは論外だ。
ならば、少しずつ距離を縮めていくべきだろう。
湊斗はそっと葵衣との距離を詰め、葵衣の手をそっと握った。
「……!」
少し驚いたように葵衣は体をびくっと振るわせ、湊斗の顔をちらりと見るが、平然とした態度をとる湊斗を確認すると俯き、照れながらも湊斗の方に体を寄せた。
どうやら葵衣も満更でもないようだ。
湊斗は葵衣の手の柔らかさを感じつつ、自分を受け入れたことに安堵していると、今度は葵衣が指を絡ませるように手を繋ぎ直す。
しばらく無言で歩いたのち、葵衣がふと口を開く。
「こうして手を繋ぐのもいつぶりですかね」
「前に手を繋いだのは小3だったから、9年ぶりぐらいじゃないか?まあ、その時はこんな繋ぎ方ではなかったが」
お互いにぎこちない会話がしばらく続き、2人は最寄りの宿屋に入った。
◇
俺たちは近くにあった宿屋に入った。小さく、古い宿屋ではあるが掃除はしっかりとされており、建物の中はそれなりに綺麗だった。
「いらっしゃいませ!」
宿屋に入るとカウンターにいた10歳ほどの少女に声をかけられる。家の手伝いをしているのだろう。
「一泊2名様ですね!お部屋はご一緒で大丈夫ですか?別々の場合はその分料金が発生しますが」
少女にそう尋ねられ俺は葵衣の方をチラッと見る。すると、葵衣は小さく頷いた。
「ああ。構わない」
「かしこまりました!お部屋にご案内します!」
少女に連れられて部屋の前まできた。
「こちらがお部屋の鍵になります!1階の食堂は9時までですので、ご利用の際はお早めにお越しください。それではごゆっくり」
少女はそう言い終えると、ぺこりと頭を下げロビーに戻った。
部屋にはクローゼットと簡素な机と椅子、そして、1つのベッドが置かれていた。
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