江戸011 もうしおくる 弐

 聡い秀頴は、俺の言葉の微妙な違いを聞き逃さなかった。


「本気だったってことは、今は違うってこと?」

「いや、今も本気だよ」

「じゃなんで、そんな言い方するんだよ!!」


「今更なんだけど、思い出したことがあってね。俺はさ本気で人を

好きになっちゃいけない身分だったんだよ。小さい頃から人並みのことを

望むんじゃないって言われてたのに、そんなことすっかり忘れて

有頂天になってたんだ。身の程知らずもいいとこなのに気づかないなんて

笑い話にもなりゃしないよな?!」自分の出自を笑うしかなかった。


秀頴は無言のまま、返答に困っている様だった。


「だからさ、もう俺のことは忘れてくれ。なかったことにしてくれて良いよ」


「それは遊びだって事がバレると困るから?」

「バレるも何も遊びじゃねぇし。でも誰も信じないだろうけど…」


「じゃ宗さんを信じられない、俺が悪いってこと?」

「そじゃなくて!! 派手に遊んでるの見てゃ信じられないのが

当たり前だと思うぜ」


「そうやって自分の出自を持ち出して、人の情に訴えて

相手から別れる様に仕向けてきたの?」

「別れたい時ははっきり言えばいいだけで、俺の話なんか言う必要な…ぃ

あ… そうか… そうだねぇ。余計な話を聞かせちまって申し訳ない。

忘れてくれ! あとはお前さんがどうしたいか決めてくれていいから」


「そんな簡単に決められないから困ってるんじゃないか!」

「困らせてばかりだよな… 本当にすまない」

「また謝ってばかりじゃないか。悪いことしてないんだったら…」


そのままだと俺は秀頴を迷わせて、困らせるばかりの存在なのだと

思った瞬間、思ってもないことを口にしていた。


「そうか…罪の意識があるから謝ってしまうんだよな」

「!!」


「もう騙しきれないみたいだから本当の事を言うよ。ずっと俺が本気だって

嘘ついてたんだ。すまない。嘘ついて誤魔化して…酷いよね。

腹が立つだろぅ? 寝転がったまま動かないから、殴るなり蹴るなり、

罵倒浴びせるなり思う存分してくれていいよ。騙した俺が悪いんだから

遠慮しなくていい。お前さんは、悪い奴に騙されただけだから

それくらいしても罰は当たらないさ」


「宗さん何言ってんの?」

「あれから何もしなかったのも、態度に余裕があるのも全部お前さんを

騙してたからだよ。気づかなかったのかい?」

「本当に騙したの?」

「だからさっきから言ってるじゃねぇか!!」

「宗さん…?」

「お前さんを騙したんだ好きにすりゃいいさ」

無理に笑って、秀頴がどうするのか待っていた。



 これで秀頴も呆れて俺から離れていくんだろうな。

出自のことは別にしても、こんなにいい加減でどうしようもない遊び人が

惚れる相手を間違えただけさ。伊豆にあれ程釘を刺されていたのに。

それでも止められなかったのは自分のせい…

散々遊んでて信用して貰えないのも自分が悪いだけ。誰のせいでもない。


あまり深入りしていない今のうちなら、秀頴の心の傷も浅くてすむ。

あいつの為には、これで良かったのかもしれない。


それにしても短い恋だったなぁ…

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