第33話

「こうしてお話を聞いていると、柚希と小野寺君って分かり合ってるなぁってつくづく思いますね」

「そう? 私としては、あんまりそんな実感ないけどねぇ」


 結愛の言葉に、柚希は肩をすくめながら飲み物を口にした。


「いえいえ、そんなことはないと思いますよ。確かに、小野寺君は柚希のことをあまり話すわけではありませんが、やはり幼馴染で色々と分かり合っているんだなと感じます」

「お、なんだ嫉妬かぁ?」

「そ、そういうことではないですよ!」

「えー、ここで『嫉妬してる』って言えば、悶絶するくらい可愛いのに」

「それこそ、さっきの話に戻って友情崩壊の危機じゃないですか……」

「まぁ、それも確かにそうだね」


 いじりに対してちょっとだけむくれた結愛を見て、柚希はつい笑顔になってしまう。


 二人はいつも学校内でもこういったやり取りをしている。


 ちょっとむくれている結愛もこういう柚希のいじりを理解しているし、柚希としても結愛にこういう絡み方をしても大丈夫というお互いの信頼関係がある。

 だからこそ、本当にそうであったら仲が悪くなるような話やまだまだ関係性として落ち着いていると言えない侑人と結愛の二人についても、ネタにすることが出来る。


「でも、一緒に居ればいるほど小野寺君は普通に女子から見て魅力的に見える人……だと思います。今まで彼女が居なかったということの方が不思議、だと思うくらいです」

「まぁ本人は事故肯定感低めだけど、顔も悪くないし、勉強出来るし、運動も要所要所出来るところがあるからね。実質、中学の頃も全くモテなかったわけではないんだよねぇ……」

「そ、そうなんですか!?」


 柚希が何気なく言ったことに、結愛は思わずいつもよりも大きな声を上げてしまった。


「だ、大丈夫。モテてたからといって、付き合ったこととかはないから」

「そ、そうですか……」


 そんな彼女の様子に、柚希は耐えられんとばかりに笑いを押し殺しながら、侑人が付き合ったことが無いことをより強調しながら言った。


 そんな柚希の言葉を聞いて、結愛は自分が少し取り乱していることに気が付いてしまったのか、小さ声で返事をしつつも、どんどん顔が赤くなっていく。


「結愛、どうやったらそんなに可愛くなれるわけ?」

「言っている意味がよく分かりません……」

「これが意図的に出来るやつが居るとしたら、世の中を壊せるような気がするが、やはり天性の持ち物か……」


 近くを通りかかった人が、年ごろの女子高生から聞かれるはずもの無い厨二病感満載の言葉に、思わず二人に視線を向けてしまう。

 しかし、恥ずかしさに悶絶している結愛と、結愛の可愛さに圧倒されて謎の感動に満ち溢れている柚希は、そんな視線に気が付く様子もないのだが。


「まぁ、その相手が俗に言うメンヘラ?っぽいやつで、その侑人のことが好きな女子自身が逆に『侑人が自分の事を好き』みたいな噂を学年中に広めて、おかしな空気にしたりしてたんだけどね」

「そういう人、どこの学校にも一定数いますよね……。中学生ならば、色恋沙汰に敏感になっているでしょうし、小野寺君も相当大変な思いをされたのでは?」

「うん。噂鎮火に少なくとも二ヵ月くらいはかかってたと思う。まぁ、何とか抑えたとはいえ、そのせいでここ最近までは随分と尖った性格してたけどね……」

「そうなんですか? 小野寺君はどこまでも優しくて、そんなイメージが湧きませんが……」

「中学の最初の頃も、今みたいな感じで本当に誰にでも優しかったよ。でも、そういう優しさに勘違いした奴から変な面倒ごとに巻き込まれて、そのネタでずっといじられるし、かなり周りにきつい性格になってたんだよ。高校になって、その頃の連中もいなくなって、落ち着きだしたから今の感じになってるんだと思う」

「は、初めて知りました……」


 結愛としては、侑人と一緒に居る機会が多く得られているために、それなりに色んなことを話してきた。

 しかし、お互いの交友関係、しかも過去のことなど柚希のように今でも同じ場所に居る人以外のことをわざわざ掘り返して話すことなどない。


 だからこそ、柚希から聞かされる侑人の過去のことについては、話を聞き進めるごとに大きな驚きを感じずにはいられない。


「多分、それまでは心に余裕も無かったから、彼女が欲しいともならなかったんじゃないかな? 『彼女が欲しい』とか思い出したのも、やっと落ち着いて高校生活が過ごせるようになって、余裕が出てきてるんじゃないかね?」

「そのタイミングで、柚希の仲介で私と小野寺君が出会うということになったんですね」

「そうそう。ずっと関わってきて、棘も無くなってきたから結愛を怖がらせることもないと思ったし、いいタイミングだと思った。それに、さっきも言った『変な女に捕まっても~』みたいな話したけど、やっと穏やかな侑人になって来たのに、また変なことに巻き込まれて性格がきつくなったり、今度は無理して受け入れて振り回されるのもね……。苦労してるも見ているから。って、ここまで話すつもりなかったんだけどなぁ。こうして色々と聞いちゃうと、何か重くなっちゃうじゃん?」


 やってしまったという感じで、ちょっとだけ申し訳なさそうに柚希の声が小さくなった。


「いえ、色々と聞けて良かったです。聞けば聞くほど、いつも優しくしてくれる小野寺君が、良い人なんだなって思います。一度大変な目に遭って、またこうして優しく接することはなかなか出来ることではないと思います。本当に心の底から優しい方なのだろうと思います」

「……うん。流石結愛、理解してくれてる」

「良い人を紹介してくれて、改めてありがとうございます」

「いやいや、大事な親友には一番信頼のおける男を紹介するのは当たり前よ。色々あいつのことを話したけど、何より大事なのは結愛が一緒に居て楽しいかだから、相性がいいことには本当にホッとしてる。まぁこのまま、末永くね?」

「ま、まだそんな関係では……」

「はいはい、形はね?」


 どんな真面目な話になったとしても、最後はいつもの流れになる。

 それがこの二人のいつものやり取りである。
















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