第32話

 結愛と柚希の二人は、一通り店舗を見て回ったあと、昼食がてら近くのカフェに立ち寄っていた。


 道中で飲み物を飲んだりしながら歩いていたので、昼食と言っても軽い食事になる。


「こんなにのんびり出来てる休日、久しぶりだな〜!」

「部活、忙しそうですもんね」

「そうそう。いつもは土日どちらも部活になっちゃたりすることがあるから、こんな感じで午前中からお出かけしたりはなかなか出来ないね」


 柚希は笑いながら部活事情を打ち明けているが、結愛からすれば、とても忙しい生活を送っていることに改めて感心してしまう。


「少しはリフレッシュになりましたかね?」

「もちろん! いやぁ、心配かけて改めてごめんね」

「いえいえ、気分転換になれたのであればそれが一番ですから」


 既に付き合っていた彼氏問題からは、気持ちを切り替えていることは分かっていたが、それとは別に普段から忙しい生活を送る中で、いい気分転換にはなったようだ。


「その話は置いておいて……。まぁ、聞くまでもないと思うんだけど、侑人はどうよ?」

「え、えっとそれは……」

「もう関わりだして三ヶ月くらいにはなるでしょ? 改めて結愛から見て、どう思ってるのかなって」

「そ、そうですね……。最初から穏やかで関わりやすい方だと言う印象でしたけど」

「うんうん」

「関わり始めてからは、色々と私に優しく気を遣って貰えたり、勉強も出来るし、運動も出来るところをたくさん見ましたし……」

「それはつまり?」

「えっと……」


 柚希がニヤニヤ顔で更に結愛へと詰め寄ると、顔を赤くしながら俯いた。


「と、とても素敵です。こうして近い距離で関わる機会を得られて、とても良かったと思います……」

「うーん。回りくどいけど、恥ずかしがりやでガードの堅い結愛からここまで聞けたのなら、良しとしようかな!」


 柚希としても、二人がずっと仲良く関わってきていることは分かっている。

 そのため、意図的に敢えて結愛に意地悪をしているような形となる。


 そんな中でも、柚想像した以上に侑人を好意的に捉える言葉を結愛の口から聞けて、柚希としては嬉しく感じている。


「意地悪な顔で見ないでくださいよ……」

「ごめんごめん。こうして聞いてみて、結愛がここまで話してくれるとは思わなくてさ」

「そ、そんなこと言われたら、ただでさえ恥ずかしいのに、もっと恥ずかしくなるじゃないですか……!」


 先程から顔を赤くしているが、柚希の言葉を聞いてより顔を赤くした結愛は、慌てて飲み物を口にした。

 それもあって、グラスでちょっとだけ赤くなっている顔を隠れて、同じ女子から見てもびっくりするほど可愛く写る。


 ただでさえ真面目で成績優秀、そしてここまで可愛いのだから、男子からすれば憧れの存在になることは間違いない。


「結愛」

「な、何でしょう?」

「ありがとうね」

「え……?」


 結愛は、柚希の思わぬ言葉に、戸惑いの声を出してしまった。

 なぜ、彼女が自分に突然お礼を言ってくるのか。

 今日の予定のお礼なら、先程聞いたはずなのだが。


「そんなにお礼を言わなくても、いつものように私も柚希と遊びたかったですよ?」

「いやいや、そこじゃなくて。……侑人と仲良くしてくれてありがとうってこと」

「えっと、なぜそこでお礼を言われるのか分からないのですが……?」


 柚希から改めてお礼を言われた理由を言われて、結愛としては、よりわからなくなってしまった。


「……こんなことさ、このタイミングで言うことじゃないかもしれないけどさ。私って、中学の時まで侑人のことが好きだったんだよね」

「え……」

「今、結愛が感じているように、優しいし何でも器用にこなすし。何より真面目だしね」


 そんな柚希からのカミングアウトを受けて、結愛は思わず声を出してしまった。

 しかし、今考えればそれは全く不思議なことではなく、今まで何も考えていなかった自分が間抜けなだけなように感じてしまう。


 高校生になっても、あれだけ近い距離感で仲良く関われているのだから、特別な感情を抱いても何らおかしいことではない。


「でも、あいつは全く恋愛に興味がなくて、意識されることもなくってさ。私としてもだんだん幼馴染として、変な意識無しで何でも話せる関係のまま居られる方がいいなって思うようになった」

「……そして、今の関係ということですか?」

「うん、そういうこと。でもさ、最近になってあいつが恋愛に興味を持ち始めたんだよね」


 柚希は飲み物を軽く口に含んでから、話を続けていく。


「あいつの良いところは私がよく分かってる。だからこそ、『私よりもいいと思えない女と付き合い始めたら、何だかな』って思っちゃった。それに、結愛にも変な男と付き合ってほしくなかったし。そんなことを二人に思ってたら、二人で幸せになってくれたら、それって最高なんじゃないかなって」

「それで、私と小野寺君を会わせてくれたってことですか?」

「うん。でも、紹介した後に『あまりにも個人的な感情で動きすぎてるな』って後悔したときもあったの。『もしかしたら、自分のせいで二人に負担をかけたりしちゃってるんじゃないかな』って。それでも、二人は仲良くしてくれてるから本当に嬉しくてさ」


 柚希はだんだんと申し訳なさそうな顔で、これまでのカミングアウトを締めくくった。


「笑っちゃうよね。いつもは自分に対して否定的なのに、このときだけはやけに強気に暴走しちゃって」

「い、いえ。そんなことはありませんが……」


 もちろん親友としてここまで思ってくれることは、結愛としては嬉しかった。


 ただ、やはり気になることはある。


「……柚希は本当に、小野寺君のことを恋愛対象として見なくなったのですか?」

「え、そうだけど何で?」

「やっと気持ちに整理が付き始めたところで、また話題にするのもどうかと思いますが、付き合っていた方、外側から見れば真面目な雰囲気といい、小野寺君に似ている点もあったかと思うのですが」


 結愛としては、柚希が懲りたという相手は雰囲気だけ見れば真面目で落ち着いており、どちらかといえば侑人のタイプに近いと感じていた。


 柚希へ直接言葉には出来ないが、侑人へのあこがれを捨てきれていないのではないかとも思っていた。


「いや、私の好みが意外とああいうタイプなだけなんだと思う。もう侑人への恋愛感情は無いよ」

「ほ、本当ですか?」

「うん。侑人のことが好きな状態で、大好きな親友である結愛に紹介して、わざわざ地獄の三角関係にする理由ないでしょうよ!」

「た、確かにそれは……」


 その柚希の言葉は尤もだった。


「どうせ結愛のことだから、『ちょっと今、自分はイケない立場になっているんじゃないか』とか思っちゃったんじゃない〜?」

「お、思いました……」

「ごめんごめん。こんな話、わざわざ切り出さないほうが良かったかもしれないね」


 柚希はちょっと申し訳なさそうに笑った。


「結愛。もうこの数ヶ月で分かったかもしれないけど、侑人は本当にいいやつだよ。恥ずかしがりやなところもあるし、不器用なこともあるけどいいやつだから、結愛さえ良ければ一緒に居てあげてね。どうしても、これだけは言っておきたくて」

「は、はい」


 結愛が柚希の言葉に頷くと、柚希は穏やかな笑みを浮かべた。





















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