第31話
七月の最終週の日曜日。
侑人がエアコンの効いた自室で、未だに結愛へ渡すプレゼントやデートプランを考えながら過ごしている中で、結愛と柚希は中心街にある駅前で待ち合わせをしていた。
「ごめん、待った~?」
「いえいえ! 時間ピッタリですし、私も先ほど来たところですから」
少し前に、二人で柚希の気晴らしを兼ねて街に出かけようという計画を立てていた。
夏休みに入ったとはいえ、柚希は運動部で平日は毎日部活があるため、柚希も休みである週末にこうして集まることになった。
「結愛って、相変わらずそういうコーデが似合うよね。私じゃ似合わないし、羨ましいんだけど!」
結愛が夏の強い日差しから肌を守るために、淡い水色の長袖カーディガンを羽織っている姿を見て、感心するようにため息をついた。
「柚希だって着れば似合うと思いますよ?」
「いやぁ、やっぱりその人の雰囲気とかもあるからなぁ……」
柚希は明るく活発的な印象が強いが、私生活や個人の問題になると、自分のイメージから大きく離れていると思ったことにはかなり躊躇する性格にある。
そんな彼女の性格を、もう関わり始めて一年を軽く超える結愛ももちろん把握している。
「そう言わずに、ちょっと探してみましょう?」
「ゆ、結愛がそこまで言うなら……」
結愛がもう一度誘ってみると、柚希はちょっと笑いながら頷いた。
柚希のこういういつもの雰囲気とは違い、自分に対して控えめになってしまうところに、ギャップ差があって可愛いと結愛としては感じてしまう。
合流した二人は、少し歩いた先にある商店街やショッピングセンターを散策したりすることにしている。
何なら、今は通販で何でも買えるし、むしろ通販で買った方がこんな地方の店舗よりも色んなものが買える。
しかし、結愛と柚希にとっては、途中で飲み物を買って飲みながら話をして、商品を見て回ることが楽しいので、定期的にこうして買い物に出かけている。
「これなんてどうです? 柚希に似合うと思いますけど」
「も、もうこれって結愛が着てるやつの色違いじゃん……」
「明るい色で柚希に似合うと思いますし、柚希が思っている以上に似合うと思いますよ?」
「ほ、本当に?」
「はい!」
「うっ……。結愛からそんな真っすぐな眼差しを向けられると、信じるしかないな!」
結愛の勧めるカーディガンを体に当てながら、鏡越しの自分の姿を見ていた柚希は、その鏡に映る自分の隣に居る結愛の力強さに押し切られた。
学校などでは、柚希が結愛を引っ張るという形が表立ってよく見られるのだが、こういう二人の時間の時などは、結愛が柚希をグイグイと押していくことが多い。
お互いに気になった服を買ったりしながら、更に色んなお店を散策していく。
「ん、これは……!」
「どうかしましたか?」
歩みを進めていた柚希は、ふとあるものに気が付いてふらっとそちら側に引き寄せられた。
そんな様子を見た結愛は、柚希が引き寄せられたほうに視線を移すと、ネックレスなどを売っているお店であった。
「柚希は、こういうものに興味があるのですか?」
「えっ!? そ、そうだね! そろそろこういう物一つくらい着けられたらオシャレなような気がしてさ! ほらブレスレットとかだと、制服が半袖だと見えちゃって先生に怒られそうだけど、ネックレスなら制服に隠れて見えないからいつでも着けていられるし!」
「なるほど、装飾品ですか……」
「ちなみに、結愛はこういう物に興味は無いの!?」
「な、何でそんなに食い気味で聞いてくるんですか?」
「い、いやほら結愛のオシャレ事情は常に知っていきたいと言いますか!」
柚希としては、最近になって侑人が結愛への誕生日プレゼントとしてネックレスを贈ることをやって欲しい欲望がどんどん膨らんでいる。
その欲望からか、思わずふらっと装飾品店に入ってしまった。
まだそこまでなら良かったのだが、相当食い気味に結愛に装飾品に対する興味を尋ねてしまい、内心しまったと思いながら慌てて言いつくろった。
「そ、そうですね……。興味はありますよ。ただ、服と比べれば優先度は低くなりますからね。買うというところまでは至らないですね」
「ということは、着けてみたいという意思はあるということ!?」
「そ、そういうことになりますね……。それがどうかしましたか?」
「いや、同じように興味があるなら今後こうして一緒に見たり、話することも出来るなーって思って!」
柚希の反応に少し戸惑った様子を見せる結愛に、柚希はそれっぽい話をしながら内心はガッツポーズを決めていた。
そして、侑人に対して更にネックレス購入案を推し進めることを固く決意していた。
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