第30話

 結愛へ渡す誕生日プレゼントについて柚希に相談して以降、スマホの着信音がやたら騒がしくなった。


 理由としては、毎日のように柚希から「やっぱり、アクセサリーを贈ってみない?」とやたら勧められるようになったからである。


 最初、侑人が聞いてみたときは「何でもいい」と言っていたのに、なぜ変わったのかと尋ねると、「恥ずかしがりながら胸元に、アクセサリーは考えれば考えるほど、エロい!」とか意味の分からないことを言い始めた。


 挙げ句の果には、「高いようなら、多少は金は貸せるからもっと前向きに検討しろ!」と言ってくる始末であった。


「あいつの変な妄想に、火をつけてしまったかもしれんな……」


 暴走気味の幼馴染に、やや翻弄されてしまうところだが、柚希とはこれまでそれほどメッセージのやり取りをすることが無くなっていた。


 そういったところから、形はどうあれ話すことが出来ていることは、悪くないようには感じているが。


 そんな柚希から、欲望まみれの提案メッセージの爆撃を喰らっている最中でも、変わらずに続いていることもある。


「あ、真島さんから返事が」


 それは結愛とのメッセージのやり取りである。


 柚希に結愛を紹介してもらって、ちゃんと話せる機会がそこまで設けることが難しいと考えた結果、すぐに交換に至った。

 そして、その日からやり取りをしているが、そのままずっと切れずに毎日何らかの話をしている。


 普段の何気ない話題や、その日あったことなど色々な話をしているが、夏休みに入ってやり取りはより頻繁になっている。


 侑人としては、休みに入ってから結愛と会う機会が無くなってしまったので、このスマホでのやり取りを大事にしている。


 この日も、結愛と会話を続けていた。


 その日によって様々だが、彼女はどんなに遅くても数時間以内に返信してくれている。

 お互いに暇であれば、送ってすぐに既読が付いて話が続くことも珍しくない。


 今日は、そんなお互いにすぐに返事が出来る日でもあった。


 親友である敦人達と同じように、大して中身がない話をしているだけ。


 しかし、そんな何気ない話でも、新たな彼女の一面を知ることが出来、侑人としてはとても嬉しい気持ちになる。


 そのためか、申し訳ないと感じつつも、何故か敦人達と比べ物にならないくらい、結愛とのやり取りは充実感を感じる時間になっている。


 だが、侑人としては少し前まで毎日のように二人で会って話をしていたので、物足りなさも感じていた。


「……やっぱり、直接話ししたいな」


 結愛にメッセージを送り終えた後、侑人はポツリとそんな本音が口から漏れてしまった。

 長期休暇はありがたいが、何気ない毎日の楽しみが無いことの寂しさを感じてしまう。


 そんなときだった。


 ―小野寺君、今お時間ありますか? 良ければなんですけど、少しお電話でお話しませんか?


「で、電話?」


 彼女からのメッセージに、侑人は少しだけ困惑してしまった。

 これだけやり取りをするようになっても、電話をしたことはこれまでに無かったからである。


 話ならメッセージでも出来る上に、高校では会って話す時間を作っていたので、わざわざ電話をしなければならないようなこともなかった。


 直接話しがしたいと思いつつあった侑人にとっては、結愛の声が聞けることは嬉しいことではある。

 しかし、これまでに無かった状況に、何故か変な緊張感を感じ始めていた。


 もしかすると、何か特別な話があるのかもしれないとも、つい思ってしまう。


 ―大丈夫です! 是非しましょう

 ―ありがとうございます! では、おかけしますね


 緊張しつつOKすると、すっかり聞かなくなってしまったスマホの着信音が響き渡った。


「も、もしもし……。こんにちは」

『こ、こんにちは。すみません、いきなり電話してしまって。本当に大丈夫でしたか?』

「大丈夫です! こうしてお話するのは、夏休みに入る前以来で、一週間ぶりくらいですね」


 侑人同様に、彼女もやや慣れない通話に落ち着かないのか、少し最初の頃のやり取りのようになってしまっている。


「こうしてお電話でお話するというは、なかなか新鮮ですね」

『で、ですね! 柚希達とも、こうして電話で話をすることってほとんど無いです』

「お電話でのお話をお誘いしてもらったわけですが、何かお話したいこととかありますか?」

『え、えっとですね……。その……』

「?」


 念の為に、彼女から何か特別な話があるのか尋ねてみたが、その質問を受けて結愛はちょっと言葉の端切れが悪くなった。


 少しだけ結愛が『う〜……』と小さく唸った後、小さな声で侑人からの問に答えた。


『最近、会える機会が無くてお話する機会も無かったものですから……。メッセージもすぐに返してくれてましたし、今ならお話出来るかなって』

「そ、そうだったんですね!」


 彼女からの言葉に、侑人は軽く驚きつつも、同じような思いを持ってくれていたことに言葉出来ない気持ちになった。


『ごめんなさい。こんなことで電話してしまって迷惑ですかね……?』

「いえいえ、そんなことはありませんよ。真島さんのお時間が許す限り、ぜひともお話しましょう」

『はい!』


 その後しばらく、侑人と結愛は電話越しに久しぶりの「会話」を楽しんだ。




※※※


ここからは別件です。

個人的なお話になりますが、多忙であることや体調が優れないため、こちらの作品の更新が今後遅くなる可能性があります。予めご了承ください。


この作品を続けていきたいとは考えていますので、お待ちいただけると幸いです。


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