第29話

 夏休みに入ると、部活のない侑人は高校に行く必要が全く無くなった。

「常に暇なんだから、手伝いくらいはしろ」と、母親から半ば無理やり家事の手伝いをさせられることにはなったが、随分と時間に余裕のある生活が始まっていた。


「うーん……」


 そんな中で、侑人は昼間からベッドに寝転びながらここ数日の間、あることでずっと頭を悩ませている。


「真島さんへの誕生日プレゼント、何を渡したらいいんだろうか……?」


 思い切って結愛の誕生日を一緒に過ごすための約束を取り付けることこそは出来た。

 しかし、未だに何も計画が立てられていない状態となっている。


 予定の日までまだまだ時間があるのだが、思った以上にどうしていくか考えがまとまらないでいる。


 そんな中で、侑人が特に頭を悩ませているのが、結愛へ渡す誕生日プレゼントについてである。


「柚希に渡す時とは、また話が全然違うんだよなぁ……」


 同じ女子相手であっても、幼馴染で毎年プレゼントを贈り合う形になっている柚希とは、渡す物を選ぶ際の考え方も変わってくる。


「ひとまず、重いと思われるアイテムは確実に避けないといけないよな……」


 こういうときこそ、彼女持ちとして先輩の立場になる敦人に、色々と聞けば分かるのだろう。

 しかし、そんなことをすれば流石に異性絡みがあると勘付かれてしまうことになるので、容易に聞けないところが難しい。


 今のところ、付き合ってもいないのにアクセサリーなどを渡すことはドン引きされかねないということだけは分かっている状態である。


 無難なのは使ったりすることで、手元から無くなる消耗品が一番良い気がしている。

 ただ問題点として、女子が扱うものには様々なブランドもあるので、ヘタなものを選ぶことはしたくない。


 ネットで検索すると、そういったブランドがたくさん出てきて、より侑人を混乱させている。


 夏休みが始まってから考え始めたのだが、まるまる二日考えても、考えがまとまっていなかった。


「こうなってくると、誰かにアドバイスを貰った方がいいのかな……」


「誰かに」と言っても、この二人の関係性を知っているのは、限られた人物しかいない。

 しかも、相談出来る相手となると、それはもう一人しかいないわけで。


「柚希に相談するかぁ……」


 侑人は、メッセージアプリから柚希へと通話をかけてみた。


『はいはい、どうしたの?』


 数回のコール音の後、聞き慣れたいつもの声がスマホ越しに聞こえてくる。


「いきなりすまんな。今、大丈夫か?」

『部活終わって帰ってきたところだから、別に大丈夫だよ。しかし、わざわざ通話かけてくるなんて珍しいね』

「メッセージだと、ダラダラと長文のやり取りになりそうだからな」

『ほうほう。で、話の内容は?』

「……ほら、来月は真島さんの誕生日があるじゃん」

『うん。デートするんでしょ?』

「そうなんだけど、その時に渡す誕生日プレゼントは何が良いのかなって悩んでて……」


 侑人は早速、柚希に今悩んでいることについて打ち明けた。


『え、侑人が良いと思った物で良いんじゃないの?』

「いやほら、アクセサリーを始めとして装飾品や残るものは避けたほうがいいとかあるじゃん」

『えー、別にいいんじゃないの?』


 色々と悩んでいる侑人とは逆に、柚希はあっさりと「何でも良いのでは?」という回答だった。


「いやでも、関係性が進んでないのに贈らない方が良いものってあるじゃん」

『……いや、付き合ってないだけでもう私から見たら、何贈っても問題ないと思うよ』

「……マジで?」


 侑人としては、この相談を柚希に持っていくに際して、おちょくりが入りながらも、真剣なアドバイスが帰ってくるものだと期待していた。

 しかし、そんな思いとは裏腹に柚希のあっさりとした返事だったために、侑人は困惑を覚えてしまった。


『マジも何も、未だに付き合ってないのがこっちからすれば違和感あるくらいなんだよね……。それに渡すものは残らないほうがいいとか言ってるけど、既に結愛と文房具共有してるじゃん』

「な、なぜそのことを知っている……」

『休み時間に、結愛の席で話をしてる時に筆箱触ってたら、侑人がいつも使ってる消しゴム出てきた。その時の結愛、何も聞いてないのに顔真っ赤にしてたらからね? 聞かなくても察した』

「ま、まぁそういうことですね……」


 もう一ヶ月少し前の話だが、柚希にあっさりとバレていたことや、バレた経緯を聞くと侑人自身も顔が熱くなってきた。


『だから気にしなくていいでしょ。侑人が考えて選んだ物を渡すことが、何より一番よ』

「そ、それもそうだな!」

『まぁ私から強いて言うなら、アクセサリーをプレゼントしてみてほしいけどね! 予算もあるから、簡単にいかないだろうけど』

「な、なぜそんな一番大胆な選択肢になる……」


「自分で考えたものを渡すのが一番」と言われた瞬間、真っ先に消えた選択肢を、何故か柚希はしれっと勧めてきた。


『分かってないなぁ。結愛は、侑人から貰ったプレゼントなら、絶対に大事にする。アクセサリーなら、可能な限り着けようとすると思うだよねぇ』

「……まぁ、そりゃあそうしてくれると嬉しさはあるけどな」

『ペンダントみたいなのだと、制服で隠しながら着けてこられるじゃん! 結愛、案外そういう大胆なことしちゃったりしそうだなって、勝手に妄想してるんだよねぇ……。だから、プレゼントしてみない?』

「いや、流石にそんな先生に怒られそうなことしないだろ。よって、その案は却下」

『何だよー、せっかくに提案してやったのによー』


 結愛がそんなことをするとは思えないし、アクセサリーと抽象的に考えていたが、ペンダントなどの具体的に考えると、やはり渡すものとしては重すぎるし、冷静に考えてもキモいと感じてしまった。


 そのため、ひとまず柚希の妄想に基づく提案は却下し、自分で悩みながら選んだものを思い切って渡すことだけは、ありがたく聞き入れることにした。

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