第26話

 試合はそのまま終了し、侑人が自らのつま先を犠牲にしながら、決勝点のアシストをするという形で終了した。


 怪我をしているわけではないが、思った以上につま先へダメージが来ているのだが、周りはあのクロスがキックミスだったことには気が付かなかったらしい。

 チームメンバーからが勿論の事、応援してくれていた普段はほとんど喋らない女子からもねぎらいの言葉を貰うほどであった。


 ただそんな中、約二名ほどはそのミスに気が付いていた。


「最後のあれ、ミスしてたでしょ。結果、それで良かった感はあったけど」

「誰からも言われなかったから気が付かれていないと思ったが、バレてたか」

「痛そうにしてましたけど、大丈夫なんですか!?」


 更には、侑人自身は見せているつもりが無かったのだが、結愛には痛いと感じていることまで見抜かれている始末だった。


「痛いのは痛いんですけど、怪我はしてないので大丈夫ですよ」

「やっぱり痛かったんですね……」


 痛かったということを聞いて、結愛があからさまに表情が曇った。

 そんな彼女を見て、ブロックした際のように「痛くない」と強がっておけば良かったと少し後悔をした。


「ところどころでびっくりするような動きするのに、やっぱり運動音痴なところもあるんだね。私からすれば、相変わらずなんだなって感じだけど」

「高校に入って部活もしてないしな。運動能力が向上する要素が何一つ無い」

「そう考えると、今日は上出来すぎるくらいだね。よかったじゃん、結愛の前で頑張ってるところ見せられて」

「ま、まぁ……」


 侑人が個人的に振り返っても、確かに出来過ぎるくらいの結果だったことは間違いないのだが、アピールしたかった結愛の前ではっきりと言われてしまうと、何と答えればよいか分からなくなる。


「結愛も、侑人の良いところ見れて良かったね」

「そ、それはそうなんですけど……。こちらから見て、痛いんじゃないかと思うことが小野寺君に起きているのを見るのは……」

「だから心配しすぎだってばー……。この感じじゃ、運動面で結愛にいいなって思ってもらうためには、目に見えて華麗なプレイをしないとダメかもねぇ」


 相変わらずの結愛の反応に、柚希はやれやれと首を振りながらため息をついた。


「そ、そんなことないです! 頑張ってる小野寺君は素敵ですし、そもそも普段から優しいですし、頼らせてもらっているところもありますし……!」


 柚希の言葉に、結愛は堰を切ったかのように話し始めた。

 その様子に、侑人も柚希もびっくりして呆気に取られてしまった。


「あっ……」


 結愛はそんな二人の反応を見て、バッと顔を赤くして急に黙り込んでしまった。


「どうやら、運動で良いところを見せる必要もないといった感じですかねぇ?」

「真島さんをいじめるなよ……」


 侑人は、柚希を咎めながらも自分自身も結愛と同じように顔が熱くなるのを感じた。


 結愛はかなりの頻度で、侑人のことをよく言ってくれるが、未だに二人っきりの時に言われることすら慣れておらず、いつも照れてしまう。

 そんな状態にもかかわらず、第三者が居る状況で言われると、恥ずかしさが倍増してしまう。


 しかも、二人のことをよく知る柚希と来たものだから、よりそういった落ち着かなさを感じてしまうもの。


「……なんじゃこりゃ。見てるこっちが何かいたたまれない空気になってきた。もう私のフォローとか必要なくない?」

「「そ、そんなことは!」」

「いやぁ、ここまで早く進んでしまうとはね~! 夏休みまでにどこまで進展するかな~? 改めて楽しみになってきた。侑人、ちゃんとエスコートしないとダメよ? 結愛も、こやつの不器用なリードとか頑張って理解してあげてね? まぁ、もうお二人だけの時間を過ごしすぎて、問題無いとは思いますがね!」


 そう言うと、柚希は二人を置いてその場を離れようとする。


「そ、そんな変な言葉を残して二人にしようとするなよ!」

「そ、そうですよ! 意地悪しないでくださいよ、柚希!」

「もう私の出番は終わりだ……! さらば!」


 柚希は引き留めようとする二人を振り切って、そのまま駆け出していく。

 この状態でおいていかれても気まずいので、二人も柚希を追いかけることにした。


 クラスマッチも終わり、夏休みが直前にまで迫ってきた。



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