「彼女が欲しい」と聞きつけた幼馴染が、学年一の美少女を紹介してきた。

第24話

　準決勝にもなると、普段の体育で行う試合からもう一段レベルの上がったものになる。

　試合のスピードもそうだが、攻守のせめぎあいも白熱さを帯びてくる。

　攻め込まれる機会が少しずつ増えているが、先程の決定機の場面を一度止めることが出来たこともあって、侑人は想像以上に落ち着いて、相手の攻撃への対応を続けている。

　相手に接触して倒してしまうと、ファールでチャンスを与えてしまう。

　そのため、徹底的にマークをしながらも、要所でのパスやシュートを体で止めることを最も意識している。

「チッ……」

　侑人と対面する相手が、ボールを持ちながらあからさまに舌打ちをついた。

　ここまで、この舌打ちをついた相手のパスとシュートを侑人だけで合計三本止めている。

　その上で、マークまでしつこくされて、かなりフラストレーションが溜まっているらしい。

(やっぱり傷つくんですけど……)

　やはり敦人からどんなに褒められても、こうして目の前で睨みつけられながら舌打ちをつかれると、結構傷ついてしまう。

　かと言って、ここで手を緩めるわけにも行かないので、徹底した守備で突破させないように動き続ける。

　痺れを切らした相手は、ゴール前にボールを入れようとするが、侑人がガッチリ体でブロックして、こぼれたボールを大きくクリアする。

　相手に得点を許さないまま、後半終了間際まで試合が進み、最後は敦人達オフェンス陣がコーナーキックから、やや強引目に押し込んで決勝点をあげた。

　そのまま試合は終了し、終了と同時に歓声と拍手がグラウンドに響き渡った。

「ふぅ……」

　侑人しては、二戦連続でここまで競ったゲームになると思っていなかった。

　しかし、自分が思っている以上にディフェンスとしてチームに貢献出来ているという手応えを感じる。

「よっしゃ、侑人ナイスディフェンスだぞ！　去年のバスケで見たあの感じが出てきてる！」

「だろうな。絶賛プレイ中に、目の前で舌打ちされたし」

「何だ何だ、もっと自信を持てよ！　みんなもそう思うだろ？」

　敦人が他のチームメイトにそう問いかけると、同じように首を縦に振って活躍を認めてくれている。

　それを見ると、自分の手応えは間違っていなかったとホッとすると同時に、先程の相手から無駄に嫌われていないか不安にもなったりするのだが。

　決勝が行われる前の休憩時間に入り、それぞれが水分補給などに向かってバラバラになったところで、結愛と柚希が侑人の元にやってきた。

「やるじゃん。さっきのブロックがまぐれじゃなかったんだね」

「お疲れさまです。ドキドキする試合でしたね」

「思った以上に接戦でしたね。ドキドキしましたけど、勝ててよかったです！」

「結愛の場合は、試合そのものにドキドキしたっていうよりは、侑人がボールを止めるたびに怪我してないかが不安だったってことでしょ？」

　柚希は何やら持っている手提げかばんの中身を物色しながら、そんな突っ込みを入れた。

　結愛はそれを聞いて、ちょっと俯きながらコクリと小さく頷いた。

　先程ではないものの、やはり侑人のことを相当心配してくれているようだ。

　侑人からすれば、ここまで自分の身を案じてくれていることが分かったのは、家族以外で初めて。

　先程まではカッコいいところを見せたい気持ちだけが先行していたが、ここまで気にかけてくれているとちょっと言葉にし難い不思議な気持ちになる。

　結愛に心配してもらえているという優越感もあるし、純粋に彼女に心配を出来るだけかけないようにと思う気持ちもあるわけで。

「おりゃっ！」

「冷たっ！？」

　侑人が色々と考えてぼんやりとしていると、突然頬を何やら冷たいものを押し付けられた。

　全く想定していなかった感覚に、思わず飛び上がってしまった。

「受け取りな。勝利の女神である、私達二人からの力水ということで」

「……スポーツドリンク？」

　柚希から貰ったのは、有名なメーカーのスポーツドリンクだった。

「思った以上に侑人が頑張ることになるなって思ったから、結愛と一緒に出し合って買ってきた！　感謝しろよな〜？」

「わざわざ買ってくれたのか……。なんか悪いな」

　二人の厚意でくれたものだが、わざわざ所持金を使ってまで用意してくれたらしい。

　それほど大金じゃないことは分かっているが、何だか申し訳ない気持ちになる。

「気にしなくて良いんですよ？　私達が『用意しよう』ってなっただけなので。遠慮なさらずに」

「そうそう！　どうしても用意してもらったことが気になるっていうのなら、それできっちり水分と塩分を補給して、もう一度、結愛にかっこいいところを見せとけ？」

　柚希にそう言われて、侑人は結愛の方を見ると、彼女はニッコリと笑顔を浮かべた。

「あと一戦、頑張ってください。応援してますからね？」

「おお〜！　結愛直々にこう言われちゃあ、頑張るしかないよなぁ！？」

　結愛の言葉と、付け足すように言われた柚希の言葉で、わざわざ用意して貰ったスポーツドリンクの重みが、少しだけ一層増したような気がする。

「じゃあ、いただきます」

「はい！」

「うい、頑張れー」

　スポーツドリンクを口にすると、熱く火照った体に染み渡った。