第23話

 一方で、チームメンバーは侑人のとっさの働きによる勝利を喜んでいる。


「マジで止めやがった! やるじゃねぇか!」

「ナイスプレイだわ……!」

「お、おう。これぐらいは当然よ……」


 駆け寄ってきたチームメンバーに、侑人は余裕があるかのようなコメントをしているが、ボールが直撃した部分はかなり痛い。


 当てるなら、シューズで守られている足の部分で止めるのが理想的だった。

 しかし、うまく当てられずにコースが変わってゴールに入ることが怖くて、体全体で止めに行った。


 背中か臀部で止めたかったが、悲しいことに半ズボンで素肌が出ているところにもヒットした。


 サッカー選手はシュートを体で止めても、痛がる素振り一つ見せないので、改めてすごい人たちだと感じてしまった。


「次の試合は、昼休憩終わってからだとさ!」


 準決勝以降は、お昼休憩を挟んでから行われることが分かり、みんな教室へと戻っていく。


「侑人、教室戻ろうぜ」

「わり、先戻っててくれる? ちょいと所用を思い出したから」

「あいよ」


 侑人は、敦人へ先に戻ってもらうように伝えた。

 理由として、未だに不安そうな顔をしてこちらを見ている人が、約一名ほどいるからだ。


「お、小野寺君! 先程は大丈夫でしたか!?」

「大丈夫ですよ。あれが今日の役割ですからね」

「ほらー、大丈夫だって言ったじゃん。流石に心配し過ぎだってば……」


 周りの生徒たちがグラウンドを後にしたところで、結愛は心配そうに駆け寄ってきた。

 そんな彼女の様子に、柚希の方は若干呆れ気味。


「でも、凄い音がしましたよ……?」

「ボールに当たるとああいう音が出るときもあるんだって。ったく、こんな美女にここまで心配してもらえて幸せ者だねぇ」


 未だに不安そうに結愛に対して、柚希は茶化しに来ている。


「派手な音は出てますけど、そこまで痛くないですし、大丈夫ですから安心してくださいね」

「そ、そうですか……?」

「あのプレイ一つでそんな心配してたら、午後持たないよ?」


 次の試合以降も、更に強い相手が来ると、ああしたディフェンスが必要になってくる場面が多く訪れるはず。


 心配してもらえることはとても嬉しいことなのだが、同時にカッコよく見てもらえているか微妙であることも分かってしまう。

 良いところを見せたい気持ちもある侑人としては、やや複雑な気持ちだったりもする。


 この後、何度もブロックプレイや接触プレイで彼女を不安にさせてしまう事もあまり良いことではない。


 それほどダメージがないということについて、今の時点では嘘になってしまうが、問題ないことを伝えておくことにした。


「でも、ちゃんとああいうことやれるんだね。派手さ無いけど、大事な仕事だね」

「ちゃんと分かってくれて、それは嬉しいわ。ただ、ヤジがうるさすぎんのよ……」

「愛のヤジだから!」

「愛があるって言えば、何してもいいわけじゃねぇぞ!」


 バスケ部である柚希にとっては、侑人の働きがよく分かるらしい。

 ヤジさえ飛ばしてこなければ、結愛にどう頑張っているかも分かりやすく伝えてくれるだろうし、いい存在なのだが。


「小野寺君、本当に無理だけはダメですからね?」

「もちろんです。怪我してしまったら、何してるか分からなくなってしまいますからね。そこだけは慎重に頑張りますね」

「なんか母親みたいなこと言ってる……。まぁそれだけ仲が良いってことか」


 二人のやり取りを不思議そうに柚希が聞くと、そんな言葉を口にした。

 確かに、知り合って最初の頃なら、結愛がここまで心配しているということを言葉にしてくれることはないだろう。


「さて。教室に戻りますか」

「そうですね」



 その後、教室に戻って昼休憩をとった後、午後から残りの試合が再開された。


 他の学年でも試合が進んでおり、既に敗退して終了したクラスなどがある程度増えている。

 そういった生徒たちは、まだ試合をしているところに、ギャラリーとして集まってくる。


 中でも、二年生の男子サッカーは校舎から近いメイングラウンドを使用しており、各学年の教室からも近く、多くの生徒が観戦に詰めかけてきている。


「いよいよ集まってきたな! この注目度の高さ、サッカーっていうのも良かったな! 一年の可愛子ちゃんから、三年の美人先輩まで色んな人が見に来てるぜ?」

「お前にはもう彼女がいるだろ」


 集まってきたギャラリーを見つめながら、敦人はややテンション高めに侑人にそんなことを言ってきた。

 確かに、可愛らしい人も多く来ているのだが、彼女のいる敦人がテンションアップしても、仕方がないとも思うのだが。


「それはそうだが、やっぱり男って一人でも多くの女の子からモテたいだろ?」

「彼女に言いつけんぞ」

「それは勘弁願いたいな。ま、そんなことは置いておいてだ。侑人にとっては、いい相手を見つける絶好の機会だな!」

「……」


 敦人は意気揚々とそんなことを言ったが、侑人的にはもちろんそんなことは思っていない。

 侑人としては、やはり結愛ただ一人から良いと思われたいという思いしかない。


「あれ、そうでもない感じ?」

「いや、確かにそれはそうだな。良い人ね……」


 言葉ではそう合わせながらも、侑人はぼんやりと応援のために既に柚木とともにグラウンドで待機している結愛の姿をぼんやりと見つめた。

 恋愛を意識した上で知り合ったとはいえ、まだ仲良くしているだけの関係性。


 この数カ月間で積み重ねたやり取りや、距離感などの色んなものを通して、彼女を知ってきた。


 その上で、彼女のことだけしか気にならない。


 流石の自分でも、彼女に対してどう意識しているか、何となく分かってきたような気がしていた。

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