第11話
結愛が取り計らってくれたお陰で、侑人が無事に柚希へ誕生日プレゼントを渡すことが出来た次の日。
「侑人~。結愛の誕生日がいつかとか、知ってる?」
定期的に侑人へ絡みに来る柚希が、いつもよりややテンション高めにそんなことを尋ねてきた。
「いや、知らないな」
「え~? 私の誕生日っていうことで話が進んだなら、普通に自然な流れで聞いたり出来そうじゃない?」
「そ、それはそうなんだけどな……。なかなかそう突っ込んだことを聞くのはどうかなって思ってしまってな」
実を言うと、侑人も柚希の誕生日プレゼントの話から、結愛の誕生日がいつなのかさらっと聞いても良さそうな気はしていた。
ただ、他の人の誕生日プレゼントを買いに行っているところでそんなことを尋ねてしまうと、相手が嫌でもこちらが同じように誕生日にプレゼントを用意しようと考えていると分かってしまう。
一緒に出掛けるという手順は踏めたものの、まだまだお互いに気を遣いあっている状況であることは言うまでもない。
結愛にやんわり断られそうな気もしたので、聞くことを躊躇した。
その他の主な理由として、前のめりになっているようにも取られそうだと思ってしまって距離感が出来てしまうのではないかと臆病になったというのもあるのだが。
「一緒に出掛けたり、これから放課後で一緒に居る約束は出来るのに、なぜそれはダメなのか謎なんだけど……?」
「何かよく分からないけど、自分の感覚じゃそう言う感覚になってるな。表現が凄く難しいんだけど」
柚希が不思議そうな顔をするのは、侑人としても理解出来ないわけではなかった。
口頭でお互いのことを尋ね合うより、一緒に過ごしたり何かをしたりする約束の方がハードルは高く見えるし、実際のところ高いはずなのだ。
だが、この二人に限ってはそうでも無いようで、侑人としては結愛とここまで順調にやり取りが出来ていることや、思った以上に考えていることや感じ方が似ていることが分かってきて、自分の匙加減にそれなりに自信を持ち始めていた。
「つまり、何か二人だけの特別な間合いみたいなのが出来てるってことね?」
「多分、それだと思う」
「へぇ、やるじゃーん。ちょっと前まで、女子との縁が無かったくせに随分と頼もしくなったものだなぁ!」
「う、うるせぇ……」
侑人としても、口にしながらちょっと調子に乗っているのかもしれないと感じていたので、柚希の言葉に小さな声で反抗するしかなかった。
「いやいや、ちゃんと丁寧に向き合ってるしそれでいいと思うよ。その発言で積極的になりすぎてるなら、止めないといけないとも思っちゃうけど、そうじゃないし。ちゃんと距離感を考えた上でのその言葉だから、問題ないと思うよ」
「お前からそう言ってもらえると、かなり安心出来る」
いつも茶化してくる柚希だが、大事なところには真面目に答えてくれる。
何もかも初体験の侑人にとっては、既に経験者として何歩の先に進んでいる幼馴染の言葉は随分と頼もしく感じる。
「ということは、やっぱり私から結愛の誕生日を教えるのがいいか! サプライズ的な感じにもなるし!」
「教えてもらえるのはありがたいが、真島さんが嫌がらないか不安なんだが……」
「私が勝手に言ったってことにするから、大丈夫! それに不安なら、それまでにその不安が無くなるようにもっと仲良くなることだな!」
やや強引な言い分だが、柚希の言う通りも尤もだと思った。
誕生日にプレゼントを渡しても、問題ないくらいになれないようでは、今後の進展は見込めないのは間違いない。
「確かにそれもそうだ。じゃあ、教えてもらおうかな」
「結愛の誕生日は、八月十一日だよ」
「夏休み中なのね」
女子は柚希の誕生日の時のように、誰かの誕生日の時は周りの誰もが分かるようにすごい盛り上がりでお祝いをする。
もともと男子からの注目度が高いこともあって、そういうところから誕生日をひそかに知られていそうなものだが、全く知られていなかった。
その理由は、彼女の誕生日が夏休み中であることが影響しているようだ。
「ちゃんと覚えたか?」
「おっけ。ちゃんと把握した。ありがとう」
「こんなこと言うまでもないと思うけど、他の人には言わない事! いいね?」
「当然だ」
「侑人が結愛の誕生日を知らなかったということは、その逆もまた然りってやつかな?」
「そう言うことになるな。俺から何も言ってないから」
「よし、じゃあそっちも私に任せろ!」
侑人が返事をする前に、柚希はその場を離れて今度は結愛に同じような話を持って行った。
「結愛って、侑人の誕生日知ってる?」
「い、いえ。知りません」
「良い感じに仲良くなってきたところだし、あいつの誕生日とか知っておいて、サプライズでプレゼントを渡すとかどうよ!」
柚希が意気揚々でそんな提案をしたところ、結愛はちょっと不安そうな表情をしながら、こう返してきた。
「そ、そうしたいのですが、勝手に誕生日を把握してしまうのは、小野寺君に引かれたりしないでしょうか……?」
そんな結愛の言葉を聞いて、侑人と結愛が想像以上に似た雰囲気であることを、柚希も実感することになった。
先ほど、侑人が「自分の感覚」を持ち出して自信がありそうな言葉を並べていたことにも、完全に納得することが出来た。
「だ、大丈夫だよ……!」
「ほ、本当ですか? 今の柚希、ちょっと良くない顔をしてますけど」
自分が考えていたよりも遥かに似たのの同士であることと、今後もうまく関係性が進む予感しかしない柚希は、こみあげてくるニヤつきを必死に堪えながら結愛に話を進めていった。
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