第10話

 次の週から始まる、二人だけの新たな予定が決まった数日後。

 いつも変わらない教室内の雰囲気が、いつもよりひときわ明るくなっていた。


「「柚希、お誕生日おめでとう~!」」

「みんな、ありがとう~!」


 侑人が座る席の近くで、誕生日を迎えた柚希のことを祝う声が聞こえてくる。

 結愛同様に女子の友達を多く持つ柚希は、誕生日を迎えると、たくさんの女子からお祝いの言葉と共に、プレゼントを貰っている。


 侑人も数日前の休日に購入したプレゼントを持ってきているが、まだ渡せていなかった。

 結愛と話した際にも感じたことだったが、今年はあまり目立たないように渡さなければと思っている。

 そのため、それなりに周りの注目が柚希から落ち着いた時を見計らって渡したいと考えている。


(ただ、あいつ相当人気者だからなぁ……)


 当初の狙いでは、朝早めに渡すということを考えていた。

 柚希は結愛同様に朝早くから登校していることが多いので、侑人も同じように早くに登校して人が少ないうちに渡そうと考えていた。

 しかし、侑人がいつもよりも早く登校したにも関わらず、教室内ではすでに柚希を中心に女子が集まっていて、渡すチャンスが全く無かった。


 結局、そのままタイミングを掴み損ねて、今に至る。

 結愛からも、「渡すタイミング、作れそうですか?」と気にかける言葉を少し前から貰っていたのだが、少し甘く考えてしまっていた。



 幼馴染なので、住んでいる場所も近所。

 そのため、学校外の時間に渡せないこともないのだが、もうお互いに高校生。

 それ上、相手には彼氏もいる。


 余程のことでない限りは、校内で済ませるということを意識している。


(柚希が部活に行く前を狙って、渡すぐらいしかタイミング無いかな……)


 朝の時間が無理だった以上、次のチャンスは周りが部活に向かうところになる。

 ただ、予め柚希にちょっと待ってもらうのを伝えておかないといけない。

 侑人に要件があるときは、残って声をかけてくることもよくあるが、基本的には放課後になるとすぐに部活に向かっている。


 そのため、引き留めておかないと渡すチャンスがないということになる。


 だが、ここで「放課後、少し待って欲しい」という旨を伝えるために呼び出すと、普通に目立ってしまって、本末転倒ということになる。


 理想的なのは、柚希と友達の女子経由で伝えてもらうことになる。


(そんな相手、一人しかいないんだけど……)


 その条件に当てはまるのは、女子の知り合いが極めて少ない侑人にとって、もちろん結愛しかいない。


 しかし、そんな彼女に周りの目を気にしながら接触を図るのも至難の業。


 あれこれ悩みながら、女子に囲まれている柚希とその隣りにいる結愛をちらりと見た。

 柚希は周りからの話しかけられていることもあって、全く気がついていなかったが、結愛はこちらに気付いたようで目が合った。


 侑人としては、彼女と目が合うということは嬉しいことではあるが、置かれている現状を伝えることは出来ない。

 彼女はニコッと笑いかけてくれた後、再び柚希を中心とする会話に戻っていった。



 その後も、授業中を中心にいい方法が無いかと色々と考えたが、大した案も出ない。

 再び休み時間に入った後、侑人は少し離れた渡り廊下まで歩いてきた。


「真島さんに言われた時点で、どこで渡すかちゃんとよく考えておくべきだったな……」


 侑人自身、楽観的過ぎる性格のようで「こうなるだろうな」と予測は出来るのに、「まぁなんとかなるだろ」と甘い考えを持ってしまって、後で困るということがよくある。


「後日、渡すことにするかな」

「やっぱり渡せるタイミング見つからなくて、困ってたんですね?」

「おわっ!?」


 突如後ろから、最近聞き慣れてきた声が聞こえてきて、思わず飛び上がってしまった。

 振り返ると、いつの間にか結愛が立っている。


「目が合ったときに、困ったような顔をしているように見えましたので、後を追ってきました」

「真島さんから言われてたのに、甘く考えてました。柚希の周りには常に誰かがいて、渡しに行ける雰囲気ではないですね」

「だからといって、後日は駄目ですよ? 柚希は絶対に小野寺君からのプレゼントを期待してるんですから! 何か私に出来ることはありますか?」

「……あいつに、放課後ちょっと待ってて貰えるように頼んでもらっていいですか?」

「分かりました。私から柚希に伝えておきますね?」

「すみません、助かります」


 察しが良すぎる結愛のおかげで、形はどうあれ彼女経由で柚希に待っててもらえるように伝えてもらえることになった。



 放課後。いつもと同じように、生徒たちが部活や帰宅のために、一気に教室から出ていく。

 今日一日、柚希の周りにいた女子たちもプレゼント渡しやお祝いの言葉を伝え終わったのか、普段と変わらない様子で教室から出ていった。


「侑人〜。待っててくれとはどういうことかな〜?」

「おお、わざわざすまんな」


 教室にほとんど生徒が居なくなったタイミングで、柚希の方から侑人に声をかけてきた。


「ほい、今年の誕生日プレゼント。ちょっと渡しに行ける雰囲気じゃなかったから、遅くなった」


 侑人は鞄から、用意しておいたプレゼントを柚希に渡した。


「お、やった! 遂に今年はもうくれないのかと思ってた!」

「すまんな。本当は朝早くに渡そうと思ってたんだけどな」

「え、めっちゃ可愛いんですけど! いっつもこんな感じじゃないのに」


 毎年プレゼント貰う柚希は、侑人がどんな物を送ってくるか大体のイメージを持っている。

 だが、今年は少し違うと感じたようだ。


「じ、実はな……。真島さんと一緒にお前に渡すものを探しに行ったんだよ」

「……へ?」

「柚希に『二人でどう?』って言われたので、一緒に行ってきましたよ?」


 侑人が休日の件を打ち明けたところで、結愛もこの話の中に入ってきた。


「うっそでしょおおお!? 本当に!!!?」

「予想通り、プレゼントよりもこの話の方に食いついたな……」

「だって、結愛は何も言ってなかったし……!」

「そんなこと、皆がいる前では言えませんよ。柚希ったら、こうして騒ぐだろうなって私達で話してましたし」

「まじかぁ……。私が想定してるより、遥かに早いスピードで仲良くなってる! いつ行ったの!?」

「先週の土曜日です。その後、お昼御飯も一緒に食べに行ったりもしましたよ」

「その話、もっと詳しく!」


 プレゼントに騒ぎつつ、二人が一緒にいた話にも騒ぐという、予想通りの反応。

 部活があるはずなのに、いつまでも話を続けたそうにする柚希だった。

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