第9話
メッセージのやり取り、朝の声掛け、そして休日デート。
侑人と結愛の関係性は着実に進んでいるが、この二人を合わせた柚希しか知らないことで、周りの生徒たちはこの二人が仲良くし始めたことなど、何も知らない。
その柚希ですら、既にここまで二人で仲良くしていることは知らない状況。
お互いに何かを約束したわけではないが、周りには決して漏らさない秘密の関係性ということになっている。
「侑人さ、気になる子とか見つかった?」
昼休み。
いつものように敦人と昼食を取っていると、ふとそんなことを尋ねられた。
「いや、全然だな」
「や、やけにあっさりだな。ちょっと前まで、もう良い人は見つからなさそうって相当落ち込んでたのに」
結愛とかなり仲良くなってきた侑人にとって、今のところ新しく仲良くなる女子を探すということは完全に頭から無くなっていることもあって、その意識がそのまま返事に出てしまった。
「い、いやそのー……。がっつく方が上手くいかなさそうと言うか? ちょっと落ち着いていい出会いを探してみればいいのかなって」
「なるほど、確かにそれはそうかもしれんな。まさかの真島さんへアタックして、玉砕でもしたのかと思ったわ」
「そ、そんなこと出来るわけないだろうよ……」
咄嗟に適当なことを言ったが、敦人はそれなりに納得したようだ。
ただ、敦人は何気なく言った最後の一言に、侑人は思わずビクリと跳ね上がってしまった。
アタックしたわけでもなく、玉砕したわけではないが、予想外の流れから接点を持ち、仲良くしているわけで。
(真島さんと仲良くしてるなんて聞いたら、こいつひっくり返りそうだな……)
結愛と毎日のようにやり取りするのが、もう侑人の中では当たり前になりつつある。
だが、相変わらず校内の男子では「なかなか関わることが出来ない相手」として認知されていることは変わっていない。
いくら友達とは言え、そんな認識を持たれている彼女と仲良くしていることに関しては、一切話すつもりは無い。
「そう言うお前は、彼女とうまくやれてるのか?」
「もちろん。この間の定期試験の成績が悪くて、一緒に勉強しようってなった。ただ、結局イチャイチャして全然勉強してないけどな」
「なるほど。彼女とそんな話になってたのか。なら、もう俺が試験前に助けてやる必要はないな」
「そ、それとは話が別だって……!」
これ以上、結愛の話にならないように話題をとっさに切り替えたのだが、そのせいで惚気話に繋がってしまった。
切り替える話題のネタを間違えたしまったと、侑人は思わずため息をついてしまった。
部活が忙しいこともあるが、敦人はもともと勉強が得意ではない。
進学校ということもあって、定期試験で赤点を取ってしまうと部活禁止になってしまうというルールがある。
それだけにはならないように、試験前に短い時間でも対応出来るような最低限の基礎問題の解説や、勉強範囲を伝えてフォローしていた。
勉強をしなければいけないと感じたことに、一瞬だけ感心したのだが。
「勉強を放棄して、彼女とちゅっちゅしてたってことだろ? それだけ余裕なら、俺の出る幕は無い」
「そんなことはないって! キスもしたけど、俺の部屋に集まってたからその……もっといろんなこともしたんですけどね?」
「はい、これまでお疲れ様でした」
「み、見捨てるなって……」
敦人の彼女は、別クラスで部活関連で仲良くなった相手らしい。
そのため、侑人自身はどんな人なのかあまり知らない。
だが、これだけ聞いて後にその人に会ったら、結構気まずいだろうなと思ってしまう。
仲が良いことに越したことはないが、生々しい惚気話までは勘弁願いたいところ。
「お前はともかくとして、彼女さんまで成績落とすようなことにならんようにな……」
「おう、善処する! だから、変わらずフォローは頼むわ」
「あいあい」
全然信用ならない返事だが、ここは二人の問題。
関係のない侑人が、これ以上何か言うのはまた違うと思ったため、その話をそこで切り上げた。
授業が終わり、放課後になると教室から一気に生徒たちが部活に向かっていく。
「じゃあな、侑人」
「おう。大事な時期だろうし、怪我には気をつけろよ?」
軽くやり取りをした後、敦人は足早に教室から出ていった。
そんな友人を見送った後、人気の少なくなった教室内で、のんびりと帰りの支度を整える。
「侑人、もう帰る感じ?」
「ん? 一応、そのつもりではいるけど」
敦人が居なくなったあと、今日は全く話をしていなかった柚希が、侑人の元にやってきた。
「せっかくなら、また屋上とか目につかないところで結愛とちょっと話してみたら? 結愛も予定が無いって言ってるし!」
そんな柚希の言葉を聞いて、同じようにまだ教室に残っている結愛の方を見ると、彼女と目が合った。
あちらも気が付いたようで、こちらに笑いかけてくれた。
「……着実に仲良くなっているようですなぁ!」
「お、おかげさまで……」
この様子を見られて、柚希が気持ち悪いくらいニヤついているが、きっかけを作ってくれた相手だから頭は上がらない。
「ほれほれ、誘ってきな!」
いつも通り、やや強引に結愛の元へ行くように促された。
ただ、侑人としても周りの目を意識しながら彼女と関わっているので、対面で話をしたいという気持ちが強い。
「真島さん。この後、少しお話出来たりしませんか?」
「はい。もちろん大丈夫です」
柚希の声がでかすぎたのか、おそらく結愛まで聞こえていたようで、ちょっと笑いながら即OKしてくれた。
「じゃ、私はお邪魔虫になりそうだから、部活に行きまーす」
事を思い通りに進めて満足したのか、柚希は二人が声をかける隙すらも見せることなく、部活へと向かっていった。
「この数分間で、怒涛の動き。やっぱりあいつって凄いな」
「ですよね。どこからあれだけのエネルギーが出てくるんでしょうか? ちょっと羨ましいです」
二人を圧倒した柚希も教室から去り、残ったのは侑人と結愛だけになった。
「問題なければ、以前みたいに屋上で話ししませんか? 誰かが戻ってきたりする可能性もあるので」
「そうですね、そうしましょう」
侑人の提案に結愛も頷き、二人揃って誰も来ない屋上へと足を運んだ。
屋上では涼しい風とともに、運動部でランニングやトレーニングをする際の掛け声が聞こえてくる。
「ありがとうございます、お時間作っていただいて」
「いえいえ。これからこの時間、一緒に勉強していこうって予定ですからね? 何も問題はありませんよ?」
彼女は、休日デートの際に侑人が誘った言葉をしっかりと覚えていてくれていた。
「そうですね、来週ぐらいからいかがですか?」
「分かりました。部活以外の日は、しっかりと空けておきますね?」
「ありがとうございます」
「毎日のように一緒に居られるとなると、もっと仲良くなれそうですね」
いつも敬語な彼女だが、発言一つ一つがびっくりするくらい可愛らしい。
「あ、でもお友達の方のようなのはダメですからね?」
「ひ、昼休みの話、聞こえてたんですか……?」
「席が近かったですからね!」
「もちろん、そんなことは決してしませんので……!」
まさか、あんな品のない話が聞こえていたとは思わなかった。
積極的に来られる事が、あんまり得意でない結愛にとって、聞きたくない話だったはず。
「小野寺君は真面目なので、心配してないですよ? ただ、念の為?というものですよ」
慌てて首を振って否定したが、それを見た彼女は、笑っていて本気で言っていないようだ。
そんな彼女の様子にホッとしたのと同時に、ちょっとだけ振り回されたような気がして、それだけ仲良くなってきたかと思うと、それも悪くないと侑人は思った。
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