第8話

「着きました。ここですよ」


 到着したのは、オシャレな小さめの建物。

 出来てからそれほど時間が経っていないのか、綺麗な塗装が映えている居る上に、綺麗な花を咲かせる植物が植わっている。


 敷地の入り口から建物に入るまでの道中には、砂利の中にビー玉が混ざっていて足元まで相当オシャレになっている。


「も、もの凄くオシャレですね」

「たまたま見つけたんですけど、良いところなんですよね」


 建物の中に入ると、女性定員が空いている席へと案内してくれた。

 お昼ということで多くの客が昼食を取っているが、軽く見渡した限りでは侑人以外、男の客が誰一人いない。


 二人そろって日替わりランチを注文し、料理が届くまで待つ。


「誕生日プレゼントを一緒に探しに行ったって柚希に話をしたら、どんな反応しますかね?」

「おそらくですけど、プレゼントを貰ったこと以上にはしゃぎそうな気がしますね」


 そもそも、侑人に「二人で遊んでみたら?」と吹っかけてきていて、まだ無理そうだという結論にかなりもどかしそうにしていた。

 そんな状況で、自分の働きかけ無しでそこまで進んだと知れば、テンションが相当上がるのは、ほぼ確実と言える。


 そんな話をしている中で、侑人はあることをふと思い、結愛に尋ねてみた。


「自分のところに、柚希は『そろそろ二人で遊びに行ってみたら?』とか吹き込まれたんですけど、もしかして真島さんにも来ました?」

「来ましたよ! それで何かいいきっかけ無いかなと考えた時に、今日の件を思いついたんです」

「やっぱり真島さんにも、同じようなことを言っていたか……」

「小野寺君にも言っていたんですね。柚希ったら、抜かりが無いですね」

「自分は一緒に勉強とか考えたんですけど、定期テスト終わったばっかりなのでそれもどうかなと悩んでたところでした」

「それで先ほど誘っていただけたんですね。小野寺君って相当勉強出来ることは知っているので、色々と教えてくださいね?」

「いやいや、真島さんこそいつも成績優秀者で名前呼ばれてるじゃないですか」


 侑人はクラス内は五位、学年全体なら悪くても二十位以内くらいに入るが、柚希から「結愛よりは下」と謎のマウントを取られたことがある。

 こうして立てようとしてくれているものの、教えてもらうのは侑人側になりそうだ。


 そんな話をしていると、二人の元に注文したランチが目の前に届けられた。


 メインの鶏肉の甘酢炒めに、副菜の小鉢が何個も付いており、SNSにアップされるようなオシャレな料理のラインナップになっている。


「「いただきます」」


 見た目が綺麗な料理は、口に運ぶと学食などに慣れ切った侑人の舌には慣れない上品な味が広がった。


「お口に合いますか……?」

「とても美味しいです!」

「良かったです……!」


 侑人の反応を見て、嬉しそうな顔をした結愛も料理を口に運んで、満足そうな表情を浮かべている。


「真島さんは、柚希達とこう言うところで食べるんですね。男同士だと、こういうところに行くことが無いので」

「お友達とはどういうところでお昼ご飯を食べるのですか?」

「大体、ファミレスとかファストフード安定ですね」


 大型商業施設に敦人たちと来たとするなら、その施設内にあるフードコートで間違いなく済ませている。


「初体験になりましたね?」

「そうですね、こんな女性割合が多いところで食べることなんて初めてです」

「では、今後もこう言ったところを探しておかないとですね? 小野寺君の反応を見るの、とても楽しいですから」


「探しておかないと」と言う言葉に、今後もこうして一緒に休日を過ごすことを前向きに考えてくれていると感じた侑人は、思わずドキッとしてしまった。


 その一方で、今日の一件を誘ってくれたことを始めとして、ほとんど彼女にやってもらっているのも事実。


 ありがたい気持ちはもちろんだが、何もしていない受け身の男として映っている。


 周りがこの関係性を知っていたら、確実に「何をやっているんだ!」と言われるに違いない。


「なんか色々と考えてもらってすみません。こういう時って、男が頑張らないといけないと思うんですけど……」

「そうですか? 別に私はそうは思いませんよ?」


 申し訳なさを感じた侑人は結愛にそんな言葉をかけたが、彼女は何も気にしていないといった様子を見せた。


「少しずつ慣れてきて、誘い合えばいいだけです。男の人が先導しなきゃいけないなんて思ってませんから、そんなこと気にしてませんよ。それに……今日だって私のことを咄嗟に守ってくれたこととか、その……男らしくていいなって思いましたし」


 先ほどのことを思いだしたのか、ちょっとだけ恥かしそうにしながらも、彼女は素直に思っていることを伝えてきた。


「なので、そんな風に考えないでください。私は、小野寺君とこうして一緒に居られて楽しいので」

「じゃあ、こうして楽しくいられるように尽力しますね?」

「はい、お願いします」


 お互いに抱いている気持ちをそれなりに打ち明けることが出来た二人は、ゆっくりと昼食を楽しんだ後、カフェを出て駅前まで戻ってきた。


「今日は本当に楽しかったです! 小野寺君はどうでしたか?」

「とても楽しかったです。それに、真島さんが一緒に居てくれたおかげで、今回は柚希にちょっとデカい顔してプレゼントを渡せそうです」

「良かったです!」


 当初の目的を達成するだけでなく、「二人で食事をする」というまだまだ仲良くならないとあり得ないと考えていたことも経験出来た。


「では、私が乗る帰りの電車はこちらなので、ここでお別れですね」

「帰り道、気を付けて」

「ありがとうございます。では、また来週の月曜日に」


 そう言って結愛は笑顔で手を振りながら、駅へと向かって行く。

 しかし、何か思ったのかその途中で足を止めて、再びこう声をかけてきた。


「会うのは月曜日ですけど、メッセージはしますね?」

「はーい!」


 こうして初めて二人で休日を一緒に過ごしたことで、侑人はまた一つ結愛と打ち解けられた気がした。

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