第12話
ガラリと勢いよく扉を開けると、彼はだるんとした体勢でこちらにイスを向けた。
「随分遅かったな」
「……先生って性格悪いよね」
「お互い様だろ」
そしてしばらく彼はあたしが撮ってきた写真をじっくりと眺めていた。
苦い顔をしたり、驚いたり、時々微笑んだり。
それはもう、楽しそうに。
最後まで見終えると、彼はふーっと長い息を吐き背もたれに自分の全てを預け天井を見上げた。
「なんか全体的にあれだな。高校生って感じだな」
「適当すぎ」
予想外の感想に少し呆れる。
多分作文とか苦手なタイプ。
でもなんだか腑に落ちて。
「君はどうだった」
─────そんなの決まっている。
「……ほんと楽しそうでうんざりする」
あたしはずっと羨ましかった。
人の本質に気づいていてもなお、受け入れららてしまうみんなが。
自分や他人の浅ましさを、みすぼらしさを許容できなかったあたしはいつしか彼ら彼女らから目を背けた。
そして、見つかれば全てを失う醜いお姫様を許してくれる王子様を独り待ち続けたのだ。
その一点においては、あたしは小さい頃から純粋な女の子だった。
「あはははははははは!!」
あたしがぼーっとしていると彼は大声で笑い始めた。
あまりにも突然だったので何も言えないでいると、彼はニヤニヤしながら再びカメラを手に取る。
「その感想、そっくりそのまま返してやる」
慣れた手つきで1枚の写真を選択するとあたしに見せつけた。
薄暗い背景。
映えもエモさの欠片もないただの自撮り。
そこには2人の女子が写っていて。
なにこれ。
見飽きた顔に見慣れない浮かれた表情。
息が浅くなり、顔が上気する。
自分でも信じられないくらい顔が赤くなっているのが分かった。
カメラを奪おうとするも上手く躱される。
ムキになったあたしは強引に彼に突進した。
「あっ」
バランスを失った椅子と共に先生は倒れ、あたしもそれに覆い被さるような形で倒れた。
「……っ!先生、ごめ」
「案外」
お互いの息遣いが聞こえる程の至近距離で彼はからかうような笑みを浮かべてただ一言告げた。
「普通なんだな、君」
その瞬間生まれて初めて、あたしは恋に落ちた。
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