第11話
軽音部のバンド演奏。吹奏楽部のオーケストラ。演劇部によるロミジュリ。各クラスの出店。思い思いに楽しむ生徒達。
その瞬間を丁寧に切り取っていく。
最初は何枚か適当に撮ってすぐ戻るつもりだった。
でもスマホでパシャパシャ撮るのとは訳が違ったのだ。
あたし達はこんなに色づいていたんだと、この小さなデジカメを通して今まで目を逸らしていた現実がはっきりと見えた。
それがたとえ虚飾の上に成り立つ色彩であったとしても、努力の末、必死の結果ならばそれはもしかしたら─────、なんて。
すっかり日が落ちた校内では文化祭の後片付けやら打ち上げやらが始まっていた。
時々それらに目を向けながらあたしは保健室へ向かう。
まだ彼は残っているだろうか。
「あれ、ミソっちじゃん。あのあと司っちと仲良くなった系?」
階段の踊り場でばったり先程一緒に保健室へ行った女子と出会った。
あー、そんな感じ。あたし用事あるから行くわー。
喉元まで適当な言葉が出かかる。
黙っているあたしを不思議そうな目で見る彼女にあたしは微笑みかける。
あたしでも、いいのだろうか。
「あのさ、写真撮らない?」
「……!撮ろ撮ろ!」
彼女は嬉しそうにスマホを取り出した。
カバーにプリクラやらなんやら挟んだいかにもなスマホ。きっと画質もすごくいいんだろうな。
「これで撮らない?」
彼女はデジカメを見て戸惑いつつも了承してくれた。
薄暗い踊り場にやけに大きなシャッター音が数度響く。
「うちも写真欲しーんだけどそれどーやってスマホに送んの?」
「あたしも分かんない」
「なにそれ!」
彼女はひとしきり腹を抱えて笑うと、目尻に浮かんだ涙を拭いながら持っていたスマホをポケットにしまった。
「もう1回スマホで撮らないの?」
「んー、いいや。ミソっちから写真撮ろって言ってくれただけで十分だし、デジカメの写真とかなんか特別っぽいし!」
「……そだね」
「てかミソっちからなんかしよって言ってくれたの初めてじゃね!?アガる〜」
後日印刷して渡すことを約束して彼女とは別れた。
保健室までの道のり、少し足が弾んでいたことにあたしはあとから気づいた。
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