第10話
外の賑やかさとはまるで別世界のような室内であたし達は向かい合って座っていた。
いや、あたしがわざわざ彼の真正面に陣取ったのだ。
彼は少し気まずそうに缶コーヒーをちびちび啜っていた。
もうあたしが居座ってから1時間は経とうとしている。
「いつまでいるんだ?」
「んー、気が済むまでかな」
またうんざり顔。
大抵の男性は初対面の女子高生と会話をしたがる。
話しかけて来ずともちらちらと意味ありげな視線を送ってくる。
今まで勤めてきたバイト先の男性や学校の男子に例外は無かった。
この人にはそういうのが一切ない。
本気で早くあたしが出ていかないかと思っている。
「先生って女の子に興味無い人?」
「なぜそう思う」
「なんか、勘」
「君の勘は一切当てにならないということが分かった」
乾いた笑みを浮かべた彼はコトリと、缶コーヒーを置いた。
「友達はいいのか」
「あたし友達いないし」
「は?さっきのは友達じゃないのか」
「友達って一方通行じゃ成立しないでしょ」
「君性格悪いな」
「そうかな。……そうかも」
そこで彼は初めてあたしの目を見た。
その瞳には好奇の色が宿っていた。
あたしのような人間を見るのが楽しいのだろうか。
「君、名前は?」
「ミソギ」
「いい名前だな。なんでも許してくれそうだ」
そう言って微笑む彼の顔に心臓がどくんと跳ねた。
変わってるねとしか言われなかったあたしの名前。
滅多に家に帰って来ない両親から貰った数少ない形に残っているもの。
嘘でもお世辞でもないその言葉だけであたしは彼の顔をまともに見られなくなった。
だからそっぽを向きつつ話を逸らす。
「先生は?」
「もう知っているだろ」
「いいから」
「城崎」
「下の名前」
あたしが譲らないと分かると、彼は無言で首から提げている教職員証を示した。
「城崎 司先生」
「ん、気は済んだか。なら思い出でもなんでも作りに行け」
退室を促されるもあたしは動かなかった。
もう少し、話していたかった。
「先生は文化祭回らないの?」
「僕はここが持ち場だからな」
「休憩は?」
「あるにはあるが見て回る気は無い」
あたしがあまりにも不満そうな顔をしていたためか、彼はため息をつきながら保健室の奥へ向かった。
数分後、戻って来た彼の手には小さめのデジカメが握られていた。
「これで、文化祭の写真を撮ってきてくれないか」
ぶっきらぼうに渡されたそれは少し古めな感じだったけど新品でまだなんの写真も入っていない。
貰い物、だったのかも。
「いいの?」
「ああ、どんな写真でもいい。撮ってきてくれたら……そうだな」
彼は一瞬顎に手を当て考え、あたしを真っ直ぐ見て告げた。
「君の友達になってやろう」
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