第2章
第9話
「文化祭のときって保健室休憩所になるらしい」
「へー、そーなんだ」
「え、じゃあじゃあ司っちもずっと保健室いるの?」
「ワンチャンそれある。クラスのシフト終わったら寄ってこうかな〜」
「あー、私彼氏と回るからパスー」
「えーまじかー!ミソっちは行くよね!?」
「あー、うん行く行く」
インスタのストーリーをチェックしながら適当に相槌を打つ。
文化祭が近づくにつれてクラスの皆はフワフワしだしていた。
まあ、高校の文化祭といったら学生にとっては大きなイベントだし、来年受験生になるあたし達にとっては本格的に遊べる最後の文化祭なのだ。楽しみにする気持ちも分かる。
「んじゃ決まりね!彼氏もできない寂しい独身はうちと一緒に司っちに突撃だ!」
「ちょっとー、あんたと一緒にしないでよー!」
どっと笑いが起こる。
あたしもちゃんと笑えてる。
こうやってあたしを取り巻く世界は上手く回っている。
文化祭当日、あたし達はクラスの出し物のシフトが終わったあと、何人かで連れ立って保健室に向かった。
目当ては保健室の先生。
当時、彼は女子の間で結構人気だったのだ。
「ここはサボり場じゃないんだが……」
端正な顔立ちを気だるさで埋めて椅子に背をだるんと預けた彼は、冷やかしに来たあたし達にシッシッと追い払う仕草をした。
それがあたしと彼の出会い。
「えー、いいじゃん司っち。ウチら独り身同士仲良くしよーよ!」
「嫌」
「つめたーい!」
キャッキャとはしゃぐあたし達を尻目に彼は心底ウザそうに缶コーヒーを煽る。
少しの間彼と話したあとあたし以外はみんな文化祭へと戻っていった。
あたしが残ったのはもう少しこのイケメンと話していたかったから、という訳ではなく単にこれ以上彼女らに付き合うのにちょっと疲れてしまったからだ。
最初は本当にそれだけだった。
「君は戻らないのか」
「なんで?」
「邪魔だからだ」
思わず笑ってしまった。
ここまではっきりものを言う人に今まで出会ってこなかったから。
人は誰しも他人に本当の自分なんて見せない。
本当のことは黙って、隠して、取り繕って。
クラスメイトにだって兄弟姉妹にだって両親にだって、皆仮面を被っている。
そうじゃないときっと色々失ってしまうから。
だからあたしは期待したのだ。
彼に本当のあたしを見せたとき、あたしを─────。
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