第6話
結論から言うと、彼女の訪れが絶えることはなかった。
この間のことはまるで気にしていないように毎日屋上に来ている。
女教師の言い草からすると彼女はかなり放任というか、腫れ物のような扱いなのだろう。
変に縛り付けてストレスを溜めさせるよりも、自由にさせてとりあえず卒業してくれればいい。後はどうなろうが学校には関係がない。
学校というのはそういう閉鎖的なところなのだ。
ただあの女教師は少し彼女との関わりに積極的に見えた。
カウンセラーかなにかか、はたまた……
「あたしね、実は保健室登校してるんだ。あの人は保健室の先生で佐藤って人。美人でしょ」
僕の考えを見透かしたように、彼女は購買のパンを咥えながら言った。
「へえ、是非とも一緒に呑んでみたいね」
「む、あたしも先生と呑みたい」
「成人して君が僕のことを覚えていたらな」
「約束だよ!」
細くて白い指がにゅっと金網から伸びる。
「なんだこれは」
「指切り」
「口約束でいいだろ」
「駄目」
真っ直ぐで、脆そうな視線。
それが彼女のすべてだった。
僕はそっと小指を差し出す。
彼女と指を絡める。
もちろん感触なんてない。
ただそこにはわずかな温もりがあるような気がした。
「ゆーびきーりげんまんうーそついたらはーりいちまんぼんのーます。ゆーびきった!」
「桁が多くなかったか……?」
僕のツッコミに答えることなく彼女は満足げな表情でむしゃむしゃとパンを食べ尽くし、また明日と言い残して校舎に戻っていった。
空を見上げる。
空はどこまでも青く高く、そしてキリがない。
遠くに見える大きい入道雲も、キツそうな日差しも、嫌な季節の訪れを知らせるのには充分だった。
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