第5話
体育祭は紅組の圧勝で幕を閉じた。
しかし負けた白組には悔しさの欠片もなかった。
皆一様に肩を抱き合ったり写真を撮ったりしている。
どれだけ青春できたか、盛り上がれたか、楽しめたかに重点が置かれるこのイベントにおいて勝ち負けはあまり関係ないらしい。
彼ら彼女らは今後このキラキラした思い出を度々振り返っては、あの頃は良かった、輝いていたなどと宣うのだろう。縋るのだろう。
では彼女はどうか。
くたびれた地縛霊とともにこのイベントを傍観していた彼女は、今後何に縋ればいいのだろうか。
僕との思い出は、縋るに値するのだろうか。
彼女は相変わらずニコニコしていて、それが分厚い仮面なのか、それとも偽りないものなのか、もう判別つかなくなっていた。
だがそんなことはどうでもいい。
そうだ。どうでもいいはずなんだ。
僕には1ミリだって関係ないただ自殺しようとしていただけの女生徒。
こんなに彼女のことが気になってしまう、気にかけてしまうのは同情なんかでは無い。
なにか、なにかだ。
ここまで考えが及ぶと靄がかかったような気分になる。
まるでこの先はダメだとなにかに邪魔されているみたいだ。
「先生?どしたのそんな怖い顔して」
不思議そうに僕を覗き込む彼女は本当に不安そうな顔をしていて思わず笑ってしまう。
「どんな罰ゲームが待っているかと想像したら不安で仕方がない」
「そっか。紅組勝ったからあたしの勝ちか。なにしてもらおっかなー」
ガチャン!
後ろで扉が開く音がした。
ミソギの肩がビクッと跳ねる。
「あっ、こんなとこにいた!ミソギちゃん保健室いなかったから心配したんだよ?」
先程の坊主に連れられていた若い女教師だった。
近くで見ると思ったより美人だ。
さぞ生徒に人気なのだろう。
「……あたしの勝手じゃん」
「まあ、動き回るのはいいとしてもここは生徒立ち入り禁止だよ!さあはやく戻ろっ。みんなで写真撮るよーってなってるからさ」
女教師はミソギの手首を掴んだ。
「離してよ!」
悲痛な金切り声を上げ、暴力的に、それでいて確かな意志を持って彼女は手を振り払った。そしてハッとしながら僕の方を見た。
「ご、ごめんなさい」
「こ、こっちこそごめんね!急に手掴んだら……嫌だよね」
……こっちを見るな。気まずいのは僕も一緒なんだぞ。
そんなテレパシーが通じる訳もなく、結局彼女はチラチラ僕の方を見ながら女教師と共に校舎に戻っていった。
それにしても保健室か。
やはり普通に登校しているわけでは無さそうだな。
まあ……これで彼女がここに来ることも難しくなっただろう。
やっと元の日常が戻る。
元の……
─────僕の元の日常ってなんだ。
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