第4話
「あの坊主の人、足速いね」
「あいつは毎日野球部の練習のあとこっそり走り込んでいたからな。殊勝なこった」
「そりゃ坊主がモテようと思ったら運動しかないから」
歓声が飛ぶグラウンドを見下ろしながら、僕ら2人は競技を見ては適当な感想を言い合っていた。
今日は体育祭。
青い春が渋滞するなかで、自然と僕の表情は険しくなっていた。
「次は借り人競走か」
「お題で好きな人とか入ってたりしてね」
「それで好きでもない相手から公開告白とかされたら最悪だろうな」
「先生って……いや、なんでもない」
容赦なく突き刺さる哀れみの目を受け流しながら、先ほどの坊主頭が出場しているのに気づいた。
なにやらもじもじしながらお題を持ってウロウロしている。
「あれ!好きな人なんじゃない!?」
「君は案外俗物なんだな……」
「JKはみんなこんな感じなのだよ」
「体育祭の日に幽霊と観戦するJKは君だけだよ」
坊主の男はまだ新卒っぽい女教師を引っ張っていった。グラウンドから黄色い歓声が上がる。僕の後ろからも。
「きゃーっ!禁断の恋だね!」
「無謀すぎるな。教師が生徒に恋愛感情を抱くはずがない」
「……やっぱそうだよねー。どんまい坊主」
思わずコロコロと表情を変え楽しそうにしている彼女の顔を見つめた。
どうしようもない違和感に襲われる。
本来であればこの表情はあのテントの下で、クラスの友達と分かち合うものだ。
それが出来ない状況とはなんだ。どこに理由がある。この性格のどこに不都合な点があるんだ。
もしかしたら僕はとんでもない思い違いをしているのではないか。
僕の思いも露知らず、彼女はキラキラした目で成り行きを見守っていた。
「君は、彼氏が欲しいとか思わないのか」
ムッとした表情で僕を睨む。
「分かってて言ってるんだったら怒るよ」
金網をガシャガシャやりながら全身で不満を訴える彼女は、まさにそこら辺にいるJKと遜色なく、僕はますます分からなくなる。
「なあ、君のなにが君を邪魔者にするんだ?」
一瞬静寂が訪れる。
彼女が消えいりそうな笑みを浮かべた。
「……応援合戦、始まるよ?」
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