第2話
───────彼女と出会ったのは4月だった。
「なんでそんな所にいるの?」
「こっちのセリフだ」
ありふれた放課後。人気の無い屋上で。
グラウンドからの運動部の掛け声。校舎からの吹奏楽の音色。
夕陽を見ながらぼーっとしていたら突然隣に来た女子高生が金網を乗り越えて飛び降りようとしていた。
彼女は僕を見つけると一瞬驚いたが、すぐに僕から目を逸らすと何かを察したようにため息を吐いた。
「……いつの間にそこにいたの?」
「ずっといた。あとから来たのは君の方だ」
「でもさっきまでいなかったよ」
「君の中ではいなかったんだろう」
「変なの」
「僕が変かは君が決めることじゃない」
彼女は泣きながら笑った。
金網にかけていた手を下ろしてそのまま金網の内側にへたりこんだ。
「……今のあたし変だった?」
「僕が決めることじゃない」
「ふふ、そーだね。あたし変なんだよ。先生に会うし」
「先生……?」
「白衣着てるし先生っぽいじゃん?」
「それもそうか」
しばらく僕と彼女の間に会話はなかった。
2人とも真っ赤な夕陽を見ていた。
「どうして、とか聞かないの?」
夕陽が沈みかけたとき、彼女は口を開いた。
沈黙が不安だったのかもしれない。声が少し上ずっていた。
「君が何しようが1ミリも興味無いからな」
「ふふっ、やっぱり変だよ」
「お互い様だ」
「……明日もまた来ていい?」
去り際、彼女は名残惜しそうに僕に尋ねた。
ヒラヒラ短いスカートが風に舞う。
僕は片付けを始めたグラウンドの野球部に目を逸らした。
「だめだ。大体ここは生徒立ち入り禁止だろ」
「えー!けちー」
「わかったら暗くなる前に家に帰るんだな」
「そこは送ってくよくらい言って欲しいなー」
「……」
「じゃ、また明日ね。先生」
楽しそうに笑うと軽やかな足取りで彼女は帰っていった。
スカートを折るなと言っておくべきだっただろうか。“先生”として。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます