第7話

 コルチ村で酒といえばもっぱら葡萄酒、つまりワインを指す。

 葡萄以外のフルーツ酒もあるにはあるが、この地域では葡萄が安定して収穫できるということもあってワインが一般的なお酒になっている。純米から発酵して作る酒はあまり一般的ではない。温暖な気候もあって米が育ちづらいため米は貴重なのだ。

「全くウチの旦那は何の役にも立たなくって、今日だってこの良くわかんない昆虫料理作っただけよ〜」

「いや変なのって言うなよ、昆虫食は立派な栄養食なんだって」

「でもこういう場で振る舞うような料理じゃないわよね〜。虫って、へへへ」

「まあロックさんは村一番の変人ですからね。全然働かないし!ガハハ」

 ミーナとティーナとソドイは完全に酔っ払っている。妙に酒に強いロックだけは顔色一つ変わっていない。

 村で自作しているワインは大人達にとって大切な息抜きの手段になっている。ロックのように年中息抜きしている人間には関係ないが。

 村の規則ではお酒は16歳からとなっているため、ハンとハルは口にしていない。とは言いつつコールのように親に隠れて飲んでいる者もいるの。

「ロックさんおかわり!」

 ティーナが木製のコップをロックに乱暴に差し出す。

「はあ、手間がかかる人たちなんだから……」

 おそらく3人ともロックにだけは言われたくないはずである。

 3人の面倒を見るのに手一杯なロックを横目にハンは何とも言えない気まずい感じになっていた。

「みんな酔っ払っちゃったね」

「そうですね。私たちも早く飲めるようになりたいものですね」

「うん、そうだね……」

 またも会話が途切れるハンとハル。

 あんなに普段は何もなく話しているというのに、こうして普段と違う服装の彼女に向かい合って話そうとすると何も話せない。

 よく彼女を見れば、頬は普段よりほんのりピンク色で口元も紅を差しているようだ。ティーナに化粧でもしてもらったのかもしれない。たったこれだけの変化でこんなにも印象が変わるものなのかと感心するハン。

「そ、そんなにみられると恥ずかしいのですが、ハン様……」

「ご、ごめん!」

 二人揃って俯く。

 ついつい無意識に見つめすぎてしまったハン。

 ハルの態度が昼までと明らかに違う。

 普段のハルであれば『私そんなに可愛いですかハン様!』的な事をいってくるはずなのだが、こんな態度を急にとられてはハンも困るというものだ。

「あ、あの私すごく嬉しくって」

「嬉しい?何が」

「私、ハン様のことももちろん大好きですがそれだけではなくてハン様のご家族も大好きなのでこうして一緒に食事が出来て、とても嬉しいんです。普段はしっかり者でハン様のことが大好きな、でも時々抜けているところがあるミーナさん。常日頃はグータラしてばかりで頼りないけど魚釣りがそこそこうまいロックさんも大好きなので」

「ほんとに僕のの父さん好き?なんか弱くない?」

「とにかく、本当に大好きなんです!」

 普段からハルから好き好き言われ続けているハンだがこうして家族のいるところで堂々と言われると流石に照れてしまう。

「あ、ありがとう……」

「いえ……こちらこそ?」

 またう会話が途切れる。

 それを見かねたのかロックが話しかけてくる。

「この酔っ払い3人は俺が面倒見ておくから、二人は夜の散歩でもハンの部屋に行くでも好きにしちゃってよ」

 ロックにしては珍しく気の利く事をしてきた。家族の前では話しづらいだろうと察してくれたのだろう。

「まあ、俺もあと30分ぐらいしたら寝るから、そのあとはハンが面倒見ておいて。あと皿洗いもよろしく、川まで行くの面倒臭いから」

 前言撤回、やはりこういう男だ。

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パンチカード・メモリーズ! 森井 威緒 @oboobo

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