第6話
同時刻、村長夫婦宅にて。
部屋の中は数本の蝋燭が照っているだけで明るいとは言えない空間で椅子に座り村長夫婦が話し合っている。この暗さでは向かい合って座っていてもお互いの顔が鮮明には見えない。
「何、本当かい?」
セドルが間の抜けた声を出す。
驚いてそういう声になったのではなく元からそういう話し方なのである。
「ああ、本当だよ。ウェンディ海岸でハンと同い年の、なんて言ったっけなあ……ああ、そうだコールって子だ。今晩村を抜け出してみるって」
ヤコは太い葉巻を燻らせながら話している。
かなり声は低く、女性の声ではあるが何となく威圧感がある。
「ヤコ、見た目は若いままだがお互いに歳だなあ、人の名前をすぐに思い出せないなんて」
「名前なんて覚えなくても、村の治安は守れるさ」
「まあその通りだけどさ、どうするのそのコールって子。なるべく物騒なことにならないようにね」
「わかってる。ただ時には痛い目にあったほうがいいこともあるんだよ。意味もなく私は村の外に出るなって言ってるんじゃないんだから」
ヤコはとても60歳前後の女性の話し方とは思えない言葉遣いで話す。
「まあ、年頃の男の子だし仕方ないね。外に冒険してみたくなるもんだよ。みんなそうやって大きくなるんだし」
「みんなねえ……」
「厳しくしすぎても仕方ないさ。独裁者じゃあるまいし」
「いや実際私は独裁者だよ、世襲制で受け継がれてきた制度を引き継いで支配している。ただ周囲の意見に聞く耳を持っている分、前時代の独裁者よりはいくらかマシだと自負しているが。必要なら悪にだってエゴイストにだってなるし全員から嫌われても構わない、事を成すというのはそう言う事だ」
「気負いすぎじゃない?」
「何があってもウェル家の血は絶やすわけにはいかない。それが私の使命だ、少々強引にもなるよ」
「使命ねえ、ただの好奇心でしょ?」
「……」
セドルの質問に無言のヤコ。
「何にしてもそれがウェル家に先祖代々受け継がれてきた古文書に記されている事は事実だ。外の文明との接触は私の解釈ではあまり良いことではない、特に巨人と村の住人の接触は何としても回避しなくては」
「あくまでヤコの解釈だ。実際どういう意図で書かれたのか謎が多すぎるよ」
「どちらにしても村の人間は全員……」
ゴトッと玄関の外で物音がする。
外の様子を確認するため、飛び出すヤコ。
空には若干雲がかかっているが、月明かりで十分周囲は見渡せる。
外には誰もいない。もちろん動物の気配も。
月明かりでヤコの顔が照らされる。
ハン達と同じ翠眼、髪は少々白いものが混じっているがやはりこれもハンと似た色をしている。60歳近いとは到底思えないほど、若々しい顔だが右目には何かで切られたのような傷跡がある。
夏だというのに暑そうな外套を羽織っている。今日に限らずいつもだ。
「動物かなんかじゃない?」
セドルが抜けた声を出しながら遅れて出てくる。
「違うな、この家の周りには害獣対策として地面スレスレの所に鈴をつけた縄を張り巡らせてあるだろ、野生の動物が焦って逃げ出したんならどれかに足を引っ掛けて鈴の音が鳴り響いてるよ。人間だ」
「さっき噂したコールって子かも」
「それならそれで好都合だよ。外に行く気を無くしたかもしれんし」
西の空も暗くなり辺りは夜になっていた。
「セドル、家を頼んだ」
「はいはい」
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