その8 スーパーウルトラハイパーミラクルロマンチックビームライト(非売品)
「と、到着です」
その屋根の上に、足をつける。
「下ろします、よ?」
「えぇ」
メルクリオで一番高い場所。足場は屋根の上なのでお世辞にも安定しているとは言い難い。
だというにも拘わらず、躊躇わず踏み出す。
そりゃあ、魔法があるのだろうけれど……咄嗟に使えずに命を落とす例なんて、枚挙にいとまがない。
「怖く、ないんですかっ?」
頑丈さに自信のあるフラウであっても、街を端から端まで、余裕で見渡せるほどの高さに本能的恐怖を覚えている。
だというのにシャルティア様は全然怖がっている素振りを見せない。
「あら? 助けてくれないんですの?」
「んぐっ……!!」
美人ムーブによる、胸キュンで死にそう。
冷静になれ。相手は、奇天烈ハチャメチャ傍若無人ビーム令嬢だ。いい匂いはするけれど、騙されちゃダメ。なんか人生がダメになりそう。
「た、助けますけど」
「なら、問題ありません。信頼していますわよ?」
「くぅぅ……!!」
カリスマ? 魅惑?
名状しがたい、着いていって、守りたくなるような魅力が満ち溢れている。
「街を眺めながら歓談を楽しみたいところですが……下準備を進めなくてはなりませんね」
シャルティア様が右手を空に向かって掲げ……光条を灯す。
ゴゥッ、大気そのものが震える。
フラウじゃなければ屋根から転げ落ちていたことだろう。落ちてしまえば大惨事、踏み潰された果実みたいになること間違いなし。
遙か空に向かって放たれた光の柱は、雲に届きそうになったと同時、弾けた。
「いや、違う」
弾けた、と見まごうほどに分かたれただけ。大きな柱は糸のようにバラバラになり、広範囲へと広がっていく。
空に幾つも存在していた雲を、綿菓子のように引きちぎりながら拡散。
幾重にも枝分かれしていくビームは、光で出来た大樹のようだった。
「およそ、北北東の方角からと見ていいでしょう」
「……流石というか、凄まじいというか」
数えられないほどに分かたれた幾重ものビームは、目に捉えられないほどの距離を瞬く間に伸びていき、まだ目に映らない隕石を捉えた。みたい。
つまりは、本当にこの国は未曾有の危機を迎えているということ。
「特別に堅いわけでもないのが、面倒ですわね……」
「その心は……?」
「適当に打ち砕いた上で軌道を逸らそうとしても、バラバラに飛び散って被害が見えませんのよ。いっそのこと特殊な鉱石か何かで構成されていた方が押し返すのには丁度良かったのですけれどね」
「あの、全てを撃ち抜くっていうのは、難しいんですか……?」
「結局、それをするしかないのでしょうけれど……大きいのですわよ。島一つ……どころか、メルクリオの島を全部足しても尚足りないほどと言っても過言ではないでしょう」
「そんなにも……」
「貫くのは今すぐにでも出来るくらいに容易い。ただ、島よりも大きな物体に城一つ分の穴を開けたところで何になりましょう」
まだ、影すら見えていない隕石を捉えるばかりか、貫通するくらいならワケがないと言い切るシャルティア様。常ならば、それほどの能力を持っていることに驚いたり、賞賛したり、そういった反応を取っていたのだろうけれど、相手が悪い。
「じゃ、じゃあどうするのですかっ……!! 何も出来ないと、みんなが……!!」
生まれ育った国が、家族が、土地が……想い出が。跡形もなく、消滅してしまうなんて考えたくもなかった。
シャルティア様に任せきりなのに、責め立てるような言葉が溢れていたのを押さえ込む。
ヒステリックに呑まれるのは楽だけれど……それじゃ、この現状を何も変えられない。
「私に、少しでも何か出来ることはありませんか!? 例えば、魔力を分ける……とか」
実際にそんな事が出来るのかは知らない。那由他の欠片でも、滅びを避けられる可能性を上げるためなら、なんだってする。死ぬ以外のことなら
「その必要はありませんわ」
フラウの提案は、すげなく断られる。
大仰に灰色の髪をかき上げる仕草とともに。
「はいこれ」
差し出された。受け取った。
「これは、えっと、なんとかビームライト……の少し大きいもの?」
「ミラクルハイビームライトが量産品だとすれば、それは一点物の特別限定仕様ですので作りが細かく、大きさも一回り大きくなっていますの……そうですね、名付けるとしたら……」
ミラクルハイビームライトが、手のひらより少し大きいくらい。特注品は手のひら二つ分くらいはある。しっかりと両手で握らないと、落としてしまいそうなサイズ感。
「スーパーウルトラハイパーミラクルハイビームライト、と言ったところでしょうか」
長い。あと、なんだかロマンチック。
「その、私はこれで何をすれば良いのでしょうか」
きっと、このビームライトとやらが滅びを避けるための鍵。シャルティア様はこれを見越して、仕込みをしていた……のだと思う。
「想いを込めて握ってみてください。想いの種類はなんだって構いません」
「想いを、込めて……こ、こうですかっ」
ライトを力強く握り、瞼を下ろす。
まだいっぱいやりたいことがある。なのに、唐突に、理不尽に、多くを巻き込んで幕が下りるのなんて、認めたくない。
つらいかもしれない。でも、楽しいかもしれない未知の学園生活が始まったばかりなのに。
「わっ……!!」
言われたままに握ると、ライトの先端にある星形の石が力強く白光を放っていた。
「その機能は全てのライトに共通します……そして、スーパーウルトラハイパーミラクルロマンチックビームライトだけの役目がもう一つ、存在しますの」
フラウの持つライトの名前が、更に長くなっていた。
「一方的にではありますが、全てのライトに対して声を送ることが出来るのです」
「えっ、じゃあ今も……?」
「いえ、無条件に送れるわけではありません……ビームを通す必要があります」
「????」
意味不明だった。
「兎にも角にも、わたくしがビームを放っている間は全てのライトに声を届けられると思ってください」
「はぁ……」
この人は、ビームと名が付けば何をしてもいいと思っているのではないだろうか。
「ほらっ、もうお越しになりましたわよ」
そう、シャルティア様が溢すと同時。
瞬くように、夜の天幕が落ちた。
「えっ」
つい数秒前まで、真昼間だったというのに。
「こんなの……どうすれば」
心のどこかで、まだ信じていない自分が居た。大きいとは言っても王城を一回り二回り大きくしただけのものだと信じたかった。
大きすぎる隕石は陽光を全て遮り、地平線をひっくり返したかのようにどこまでも空を覆っている。
まるで、空という天井が落ちてきたみたい。
星形石に灯っていた光は薄暗く小さくなっていき……そして、消えた。
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