12月

 結果、私とはーちゃんは仲直りをすることができた。ケンカはしていないけれど、すれ違って、避けあって、お互いがお互いを思い合えなかったのだから、『仲直り』はしなくてはならなかったと思う。

 私はどこまでも子供だった。けれど、これで少し大人になれた。

 はーちゃんはどこまでも大人だった。けれど、これで少し子供になれた。

 何をしたかというと、ただ遊んだだけ。幼稚園児や小学生がするように、思うままに感じるままにはしゃいだだけ。

 もうすぐ、冬休みと共にクリスマスが来る。相変わらずはーちゃんの期末テストの成績は突出して良かったけれど、どこか肩の力が抜けた彼女の表情は、私が見た中で一番安心できた。


 *


「クリスマス、遊ばない?」

 スマホの待ち受けにそんな通知が来ていた。

 私は自分の席で一人。周りにはクラスの人がたくさん。そのクラスメートの興奮した話し声も、遠くから聞こえてくる先生同士の笑い声も、今の私の気持ちを害するものにはならなかった。ふさぎ込むこともなかった。

 返事をしようと、スマホのロックを解除して、メッセージを開く。返事を入力しようとしたけれど、ひときわ大きい笑い声が起こって、ふと教室の外に目が行った。移動教室の生徒が騒ぎながら歩いている。

 その中の、教科書を持った美少女が私に向かって微笑んでいる――と、普段なら言っている。

 でも、今日は違った。

 あの子は、無邪気に手を振っていた。

「いい変化だね」

 手を挙げてそれに応えて、彼女が過ぎ去ってから、文字を入力し始めた。

 たぶん、彼女も変化を感じてくれている。

 送信ボタンを押すまえに、教室の端に目が行った。掛けられたポインセチアのリース。イベントごとの好きなクラスの担任の飾ったもの。

 その視界を遮るように、私の目の前に三人が現れた。

「ちーたん、クリスマス遊ばない? 皐月とゆいちーもいるよん」

 十一月のクラス合唱のとき、一人でいた私に声をかけてくれた三人。今ではそれなりに仲良くなれたと思っている。

「クリスマスは……ごめん、予定があるんだなぁ。次の日とかは?」

「えー、ちーたん無理か……じゃあ日をずらそう」

「クリスマスは三人で遊んで、ちーたんがいける日に四人で遊んだら?」

「……そうだね。そうしよっか。クリぼっちは辛いからね」

 ここで予鈴が鳴って、「じゃあ次の時間にはなそっか」と各々席に戻っていく。友達と呼べる人がはーちゃん以外にできるなんて、思っていなかった。

 本鈴までのちょっとの間、途中になっていた返事の続きを打った。スマホの画面をなぞる自分の指は、迷うことなく文字を拾っていく。

 ただ素直に、遊ぶことが楽しみで、楽しくなることを確信している文面。誤字がないかだけ一瞬確認して、紙飛行機のマークを押した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る