10月
体育祭が終わった。私は目立つこともなく、影薄く終わった。浅井遥香は、クラス対抗リレーの女子アンカーとして激闘の末、2クラス抜く大活躍をし、クラスを優勝に導いていた。お手本のような文武両道の体現者だった。
中間テストも終わった。私は可もなく不可もない成績。留年はしないけれど、優等生でもない。浅井遥香の名前は、相変わらずトップにあった。間違えたのは、歴史の漢字だけ。と、クラスメートが噂していた。いったい、こんな話をどこから仕入れてくるのだろう。
そのどちらのときも、見かけた笑顔は凄惨なものだった。私にあの顔を向けたのは、最初の出会いの1回だけ。その後は、子供のような無邪気な笑顔だったから。
6月に聞いたあの言葉。一言一句違わず、ずっと覚えている。きっと、今まで、想像を絶するような努力をし続けたのだろう。「小さい頃に人よりできた」だけで、周囲の期待を一身に受け、それに背かない結果を出し続けてきたのだろう。
普通の人間ではありえないことだ。そんな性格と周りの羨望が、超越した天才を作り出してしまった。
帰りの電車で考える。いつもより少し早い帰宅、太陽が沈む方に向かう電車に揺られ、考える。
彼女の笑顔を救いたい。
彼女と私の出会いは、私があまりにも情けなかった。誰よりも美しい彼女に陶酔していた。
けれど、今から、彼女を憧れの対象として見るのをやめなければならない。
期待することをやめる。
私の前で、あの子は頼れない子になってもいい。――そうなってほしいから。
私の期待は彼女には負担にしかならない。
私が頼れる子になるから。
私の成長期は遅かったみたいで、クラスメートをおいて、身長が急速に伸びだした。窓から見える景色も、半年前と違うものに感じる。
私は天才ではない。私は誰かに憧れられたこともない。私は、ない――と否定する言葉はたくさん持っている。
けれど、反対に彼女を称賛する言葉はたくさん持っている。彼女と共にいたいという気持ちが芽生えたのだから。
私は彼女の海になりたい。
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