6月(2)

 三時ごろはいつも行列のできるコーヒーチェーン店や、安価なアクセサリーのお店や、巨大本屋や、よくわからないものまで取り揃えてある雑貨店まで、たくさんのところに行った。

「私、コーヒー飲めないんだよね」

「一緒! 苦いのだめなんだ」

「一緒に甘いのにしよ」

「うんうん」


「これかわいい! 絶対ちーちゃんに似合う!」

「はーちゃんは何でも似合いそうだねぇ……。プレゼントするからつけてくれない?」

「お? じゃあお互いに似合いそうなのを渡し合おうか!」

「乗ったっ!」

「誕生日はまだまだ先だがな」

「いつ?」

「十一月十五日!」

「忘れんよ」

「ありがとう」


「ラノベって、タイトル長いの多いよね。昔は、漢字一文字! とか、作者さんタイトル諦めただろって思われるくらい雑につけられたタイトルとかなのに」

「確かに……。一文字、芥川龍之介の『鼻』がぱっと思いついたなぁ」

「さすがはーちゃん」

「最近のは、長いから内容すぐわかるよね。流行とは、時代と共に移りゆくものである」

「なるほどでござる」


「なにこれ、用途不明品が私の目の前にあるんだが」

「説明読むよぅ。えっと、マッチョ、腕枕、リア充気分。だそうで」

「……それ虚しくない?」


 ずっと笑っていたと思う。ずっと、ずっと、ずっと――。

 笑って、楽しかった時間もあっという間に過ぎて、時間の流れを認識して、この時間がずっと続けばいいのにな――なんて、贅沢な思いを持った。そう思うってことは、終わりが来ることを知っているっていうことだ。早く終わればいいのに、というのは永遠に思われても永遠ではない――その願いは叶う。けれど、永遠に続けばいいのに、なんていう思いは、願いは、悔しいけれど私が神様でない限りは叶うことはない。

 だから、はーちゃんとの別れはいずれ来るし、幸せでい続けることなんてできないのだ。

「ねぇ、ちーちゃん」

「なぁに?」

「あのさ、私さぁ――今まで誰にも、言ったことがないことがあってね」

「……なぁに……?」

 そのまま何も言わず、私より早いペースで歩いていった。

 彼女に置いていかれるかもしれない。けれど、彼女は私がついていくのを諦めない絶妙な速さで歩いていた。

 一体どこに向かっているのだろう。

 私の内心の問いに答えるように、彼女はとあるところで立ち止まった。

 大きな公園。一歩、公園の敷地に足を踏み入れたとき、彼女の張り詰めた空気が少しだけ緩んだ気がした。

 今までで一番ゆっくり歩を進めていく彼女の横について、無言で歩き続けた。

 公園の奥の奥まで入って、すれ違う人が誰もいなくなった。土管の入り口に座り込んだ彼女は、学校で見る彼女とは違う気がした。まるで別人だった。

「私は――――」

 彼女は言った。

 子どもに戻りたいと。

 大人になりたくないと。

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