4月

 入学して早速友達を作ったコミュニケーション能力に長けた人たちを横目に、私はたった1人で帰路に着いていた。周りに4月の新鮮な空気と人間が溢れれば溢れるほど孤独感が強くなるというのは、どうしようもなく心に負担をかけてくる。

 街路樹に青々と生い茂った葉たちは、四六時中、一緒にいる。元が同じ物同士、仲良く共存しているのかと思えば――あるのは、ただ糧の取り合いだけ。

 だから、いくら仲が良さそうでも、全く羨ましくない。そう――人間も同じ。お互いの能力を利用しあって、適当に恩を売って返してもらい、恩を受けては一部だけ返し、の繰り返し。

 あるのは利害関係のみ。だから、優しくない自己中心的なやつの隣には誰もいない。

 ――感情を殺せ、殺せ。そうすれば楽だ。私の周りには誰もいない。けれど、独りなのは私だけじゃない――はずだ。春の嵐が来る前、空は急激にどんよりと曇っていく。私は1人の世界を生きている。

 思い込みに必死だな。

 自分自身をあざ笑うように口元が緩んだ。

 その瞬間。

 どすっ。

 別の高校の男子生徒とぶつかった。その人は友達と一緒にいて、ちょっとだけ頭を下げて、小声で「すみません」と。私にぶつかったことなんてなかったことのように遠ざかっていった。実際、ぶつかったことなんて、1日後――いや、1時間後には私ですら忘れているだろう。この数秒の出来事は、後で思い返せば私がただ歩いていただけのことになるのだろう。

 そんなひねくれたことを考える暇があったらお前も謝れよ。

 私を批判する誰かがいた。いや、私が自分の心で思ってるだけだ。

 自分でそうした方がいいことはわかるのに、すぐに動けない私が嫌いだ。気づいたときには手遅れになっている。

 そのくせに、すぐに動ける人たちの親切には甘えているんだから、たちが悪い。私は馬鹿だ。こんな中途半端でふざけたやつが存在していていいわけがない。

 生きていたくない。

「これ、落としたよ」

 足と目の間にすっと差し込まれたのは、私のスマホだった。

「カバー派なんだね。画面、割れなかった?」

 半ば強制されたように顔を上げる。マイナスな思考が掻き消える。

 スマホを受け取ることも忘れて、私はまじまじと声の主を見つめていた。

 その顔を、入学式で見た。私の学年で最も頭が良くて、顔が良くて、誰もが羨むような完璧な人――。

 私なんかがおいそれと関われる人ではない。

 急に吹き出した風が彼女の髪を扇ぐ。木々もざわめく。あるのは自然の音だけ。その姿は、驚くほど絵になっていた。

 女の命の前髪も残念な造形になっているけれど、私に向けられた彼女の大人びた笑みは美しかった。

 羨ましいとか、嫉妬とか、

 全て無駄だと思った。

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