朝帰り
蒼を押し倒した後の園ちゃんは、唇を奪いこそしたが、そのあとは理性を取り戻したのか、「ごめん」と言ってくれた。
結局終電を逃してしまったので泊めてもらうことになったが、押し倒したことがなかったかのように、夜通し女子トークを続けて、二人とも眠くなったところで園ちゃんのシングルベッドに寄り添って眠りについた。
翌朝、蒼が目を覚ますと園ちゃんの姿はベッドにはなく、台所で朝ごはんの支度をしていた。
「おはよ。」
「朝ごはん食べる?パンと目玉焼きの簡単なものだけど。」
「ありがとう。トイレと洗面所借りるね。」
「どうぞ。」
蒼は鞄の中からポーチを取り出すと、それを持ってトイレに向かった。
「蒼ちゃん、タオルこれ使って。」
蒼が洗顔を終え、髭をシェーバーで剃っているときに、園ちゃんがタオルをもって洗面所にやってきた。
「蒼ちゃんもやっぱり男なんだね。」
園ちゃんは蒼の髭を剃る姿を、面白そうにじっと眺めている。
「そうだよ。楽しそうだけど、何か変?」
「いや、あんなにかわいい下着つけているのに、髭をそるのがミスマッチすぎて面白くて。」
「見たの?」
蒼はとっさに手で胸を隠した。
「失礼ね。私からは見てないよ。朝起きたら、はだけていて見えただけよ。そのあと見えないようにしてあげたから、むしろ感謝してよ。」
「ごめん。」
昨晩は泊まる予定ではないので、着てきたワンピースは脱いでキャミソールと下は園ちゃんから借りたジャージを着て寝ていた。寝ている間にキャミソールがめくれあがっていたみたいだ。
朝の身支度を終えたころ、ちょうど朝ごはんができ、一緒に食べ始めた。
「目玉焼き、半熟で美味しい。園ちゃんは、目玉焼きソース派なんだ。」
半熟目玉焼きにケチャップをかけ無邪気に美味しく食べていたとき、園ちゃんが真面目な表情になって話し始めた。
「蒼ちゃん、昨日はごめんね。実はいままで彼氏いたことなくて、工学部に言ったらモテるかなと期待していたけど、蒼ちゃんの方が人気で寂しかったんだ。友達もあんまりできないし、蒼ちゃんに甘えてしまってごめん。」
「こっちこそ、ごめん。誘われたからっていって、女子の家に気軽に入っちゃだめだよね。」
園ちゃんの申し訳なそうな表情に、自分もなにか悪いことをしたような気になってしまう。
園ちゃんの家をでて、蒼の家に帰ると母が待っていた。
「おかえり。朝ごはん食べた?」
「うん。」
「お風呂は入るでしょ?沸かそうか?」
「お願い。」
母はお風呂のスイッチを押したあと、リビングのソファに座っている蒼の隣にやってきた。
「蒼、泊まった友達の家って、男なの?」
「囲碁部の同級生だよ。」
女の子の家に泊まったと言ったら怒られそうなので、質問には直接答えずごまかすことにした。園ちゃんも同級生だから、嘘はついていない。
「蒼、男だけどそんな格好しているんだから、気を付けてね。今まであまり言ってこなかったけど、蒼は女性として無防備なところがあるから心配なの。」
「大丈夫だよ。」
「ほら、そんなところよ。深刻に考えてないでしょ。」
優しい母にしてはめずらしく、たしなめる口調になっている。そんな風に言われると、反発したくなってきた。
「女友達からも聞いてたから、気を付けてるよ。それに昨日泊まったのはその女友達だから、心配しないで。」
「女の子の家に泊まったの?それはそれで駄目でしょ。」
感情的になって口が滑ってしまい、女の子の家に泊まったことがバレてしまった。
「自分から泊まりたいって言ったわけじゃないし、何もなかったから心配しないで。」
蒼がそこまで言ったところで、お風呂が沸いたことを知らせるメロディーが流れてきた。
「お風呂入ってくる。」
母との話し合いを一方的に打ち切って、お風呂場へとむかった。
お風呂に入りながら、母とのやり取りを思い返してみた。母も蒼のことを心配して言ってくれているのはわかるが、もう大学生、子供じゃないという思いもある。
それに普通の男の子だったら、友達の家に泊まってきてもうるさくは言われなかったはずだ。園ちゃんみたいに一人暮らししたいなと思いながら、湯船に顔を沈めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます