お泊り
蒼はバイト先のドラッグストアで品出しをしている最中、男性用消耗品コーナーにある「奇跡の薄さ0.018mm!!」と書かれた商品が目に留まってしまった。
明後日はるちゃんとお泊りするなら準備しておかないと、蒼はそう思いながら作業を進めていた。
「蒼、金曜日の夜大丈夫なの?」
バイトから帰り、母が温めくれた晩御飯を食べている蒼に母が尋ねてきた。
「大丈夫だよ。もう大学生だから、一人でも問題ないよ。」
母は明日から2泊3日で会社の研修に行くために、荷物をまとめている。蒼が高校生の間は、泊りがけとなる本社の研修を断っていたみたいだが、蒼も大学生になり研修に参加することにしたみたいだ。
「金曜の夜も頑張ったら帰ってこられるから、帰ってこようか?」
母によると、研修が終わった後すぐに帰ってくれば夜の10時ごろには帰ってこれるらしい。
「頑張らなくていいよ。ほら、お母さんも研修で疲れてるだろうから、ゆっくり休んで土曜日ゆっくり帰ってきたらいいよ。」
「そう、じゃ、そうするから、火の始末だけはしっかりしてよ。」
金曜日のお楽しみがなくなるところだったが、なんとか食い止めることに成功した。
はるちゃんとお泊り。10代の男として、考えただけでも興奮を覚える。もちろん、それ以外にも大学に入って会う回数が激減したはるちゃんと時間を気にせず一緒に過ごせるのがすごく楽しみだ。
木曜日、初めて自分一人で過ごす夜にすこし寂しさを感じたが、翌日のはるちゃんを出迎えるために部屋を掃除したり、一緒に食べる晩御飯の準備をしたりしているとあっという間に寝る時間になってしまった。
明日は1限目から授業があるので眠ろうとするが、明日この横にはるちゃんがいると思うと、興奮してなかなか眠れない。
金曜日の授業を気もそぞろに受け終わると、「囲碁部に行かないの?」という園山さんの誘いも断り、同じく授業が終わったはるちゃんと合流した。
「晩ご飯、ハンバーグでいい?」
「蒼ちゃんの手料理、楽しみ!」
嬉しそうにしているはるちゃんの手をつなぎながら、蒼の家に向かいはじめた。
「はるちゃん、両親には泊まるって言ってるの?」
「うん、理恵ちゃんの家に泊まるって言ってる。理恵ちゃんにもお願いして、口裏合わせてもらっているから大丈夫だよ。」
はるちゃんは悪だくみをしている子供のような笑顔をみせた。
蒼の家に着くと、はるちゃんの希望で蒼のクローゼットの中をみせた。
「蒼ちゃん、私の倍ぐらい持ってるね。」
「ちょっと、大学に入ってから増えちゃった。」
大学に入って私服で学校に通うようになって、同じ服ばかり着ていないか思われるのが心配で、服のバリエーションが増えてしまった。古着屋にいけば安く買えることもあり、ついつい買ってしまった。
「確かにこれだけあると、どれ着ようか悩むね。」
はるちゃんは悟ったような表情をみせた。
蒼はハンバーグ、はるちゃんはシチューを担当して晩御飯を作り始めた。二人並んでキッチンに立つと、はるちゃんのぎこちない包丁づかいにドキドキするが、なんだか嬉しい。
「蒼ちゃん、料理上手だね。キャベツの千切りも速くてきれいだし。」
「そう、慣れだと思うけど。」
「どっちが、女の子かわからないね。」
はるちゃんは笑いながら、鍋の中に不揃いに切られた野菜を入れていった。
夕ご飯も終わり、蒼はカフェラテ、はるちゃんはミルクティーを飲みながらテレビをみているが、蒼はこの後のことで頭がいっぱいでテレビの内容は入ってこない。
「そろそろ、お風呂入る?」
蒼の提案にはるちゃんがうなずき、蒼はお風呂のスイッチを押した。しばらくしたのち、メロディーが流れてお風呂が沸いたことを知らせた。
「はるちゃん、お客さんだから先にどうぞ。」
「ありがとう。」
はるちゃんから「一緒に入ろう」と言われることを期待していた自分が恥ずかしくなった。
蒼もはるちゃんの後にお風呂に入り、寝間着へと着替える。ブラジャーをつける時に、この後の展開を考えると付けない方がいいかなと思ったが、ブラを付けていないと変な感じがして結局付けることにした。
翌朝、目が覚めると横にいるはるちゃんはまだ寝ていた。誰かと一緒に寝るのは子供の時以来で、体温の温かさが懐かしくもある。
かわいいはるちゃんの寝顔を見ているうちに、頭を撫でたくなりそっと触ってみる。自分の髪質とはちがう、サラサラな髪の毛が気持ちいい。
「蒼ちゃん、おはよ。」
「ごめん、起こしちゃった?」
はるちゃんは答える代わりに、蒼の胸を撫ではじめた。
「蒼ちゃんもやっぱり男の子だったんだね。」
「うん、そうだよ。」
「大学に入って一段と女の子っぽくなっていったから心配してたけど、良かった。」
はるちゃんが嬉しそうな笑顔をみせていた。
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