園ちゃんとはるちゃん

 土曜日、蒼は囲碁部の活動に参加していた。囲碁のルールなど基本的なことを覚えたところで、最近は9路盤という小さめの碁盤で実戦練習を始めていた。

「ここが良くなかったね。相手の言うことばかり聞いてないで、反発して自分から仕掛けないと。」

 一局打ち終わった後、園山さんが初手から並べなおして、蒼の良かったところ悪かったところを教えてくれた。

「園山さん、初めから全部覚えてるの?すごいね。」

「覚えているというか、思い出す感じかな。どこに地を作りたいとか、この石を責めたいとかストーリーがあるから、それに沿って思い出していく感じかな。」

「ふ~ん、そうなんだ。」

「それよりいい加減、園山さんって他人行儀な呼び方やめてよ。同じ学部学科で囲碁部も同じなんだから、もうちょっとフレンドリーになろうよ。」

 園山晴美だから、普通に考えると「はるみ」とか「はるちゃん」になりそうだが、蒼はもう一人のはるちゃんのことを思い出した。

 同じ呼び名にするのはまずいと思い、他の呼び方を考えることにした。

「園ちゃんでもいい?」

「なんで、名字の方?普通下の名前じゃない?わかった、彼女の名前が『はるみ』とか『はるか』なんでしょ。」

 女の勘の鋭さに驚いて、思わず黙り込んでしまった。

「図星だったみたいね。蒼ちゃん、わかりやすい。ところで、明日空いてる?そろそろ夏物の買い物に行きたいから一緒に行かない?」

 いつの間にか、蒼の呼び名も「蒼ちゃん」になっていた。

「ごめん、先約があるんだ。」

「わかった、彼女とデートでしょ。なら仕方ないか。一人で買い物行くよ。」

 実際明日は、はるちゃんとデートの約束をしており、園ちゃんの勘の鋭さに再び驚いてしまった。


 次の日曜日、はるちゃんとのデートするため待ち合わせのショッピングモールにきていた。

 高校のころは毎日約束もせずに会えていたのが、大学に入ってからは約束しないと会えなくなったことが寂しく思える。


「お待たせ。同じ大学なのに、あんまり会えないから、久しぶりだね。」

 約束の時間通りやってきたはるちゃんも、蒼と同じような気持ちみたいだった。

「今日はどうする。」

 とりあえず場所をショッピングモールとは決めたが、何をするかまでは決めていなかった。

「蒼ちゃん、私もメイク始めようかなと思うから、どれがいいか教えて。今まであまり気にしてなかったけど周りがみんなメイクしてると、すっぴんなのが恥ずかしくなっちゃった。」

「それって、彼氏にする相談じゃないよね。」

「仕方ないでしょ、蒼ちゃんの方がメイク歴長いんだから。」

 お互いに気を使わない会話が懐かしく感じて楽しい。


 化粧品売り場ではるちゃんの買い物に付き合っていたら、いつの間にかお昼を過ぎていた。

「お腹すいたね。お昼にしようか?」

「蒼ちゃんが彼氏でよかった。普通の彼氏だと、こんなこと相談できないし、一緒に買い物もできなかっただろうから、蒼ちゃんでよかった。」

 はるちゃんが腕を組んで甘えてきた。会えない時間が長かったせいか、今日のはるちゃんは積極的だ。


 モール内にあるフードコートでお昼ご飯を食べながら、お互いの近況を話し合った。

「大学って制服がない分、服で悩まない?」

「そう、朝起きて適当に決めてるけど。蒼ちゃんは、周りの目を気にしすぎじゃない?」

 蒼は園山さんにも同じようなことを言われたことを思い出した。そんなことを思いながらポテトを口に入れた時、はるちゃんの後ろに園ちゃんがいるのが見えた。


 空いている席を探しているようで、トレイをもちながらキョロキョロ周りを見ている。やがて蒼の存在に気づいたようで、こちらに近づいてきた。

「蒼ちゃんも来てたんだ。こちら、彼女さん?初めまして、森田さんとの園山晴美です。」

 園ちゃんがはるちゃんの方をみて、挨拶をした。

「初めまして、蒼ちゃんのの、西野はるかです。薬学部です。」

 それぞれ「同じ学部学科」と「彼女」の単語を強調しながらの挨拶に、蒼はいたたまれない気持ちになる。


「席空いていないから、隣り座ってもいい?」

 園ちゃんの申し出に断るのも悪い気がして同意した。園ちゃんはもっていたトレイをテーブルに置いて、3人でのランチが始まった。

 園ちゃんとはるちゃんは、表面上仲良く話しているが、ところどころ蒼の話題が出てくる。

 蒼のことを昔から知っているはるちゃんと、蒼の最近のことはよく知っている園ちゃん、それぞれ相手が知らないであろう内容を話すことでマウントを取ろうとしている。


「じゃ、デートの邪魔したら悪いから先に行くね。」

 お昼ご飯を食べ終わると、園ちゃんはあっさり席をたって去っていった。いたたまれない雰囲気に蒼は食事の味も感じなかったので、ほっと胸をなでおろした。

 はるちゃんをみると、買い物中のような笑顔は消え少し不機嫌になっている。

 機嫌を直してもらうにはどうしたら良いか、蒼は少し悩んで覚悟を決めた。

「はるちゃん、今度の金曜、お母さん泊りの研修でいないんだ。うちに来る?」

「それって、泊まりってこと?」

 返事の代わりに蒼はうなずいた。

 

 

 

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