囲碁部見学
4限目の統計学入門の講義が終わると、蒼は園山さんに連れらて囲碁部を見学してみることになった。
「ここかな?」チラシに描いてあった地図にしたがって、たどり着いた文化部棟と書いてある建物の前で立ち止まった。「2階だね。」と園山さんは言って、建物の中に入っていた。建物の中は高校の教室のように部屋が並んでおり、真ん中付近の囲碁部と書かれてある部屋のドアを園山さんはノックした。
「見学させてもらってもいいですか?」
「どうぞ。」
部屋の中から女性の声が聞こえたのでドアをあけると、」茶色のニットワンピースを着た女性が一人机に座って本を読んでいた。
「私、文学部3年生の、
「そうです。チラシで見学自由って書いてあったから着ちゃいました。」
園山さんは持ってきたチラシを見せながら言った。
「そうなの。もうすぐみんな来ると思うから、もうちょっと待ってて。その間にこの紙に学部と名前と棋力書いてもらっていいかな?」
南さんはレポート用紙を園山さんに渡した。それに園山さんは名前などを書き込み終わると、蒼に回してきた。
「棋力って?」
「囲碁の段位の事だけど、森田さんの場合初心者って書いておけばいいんじゃない。」
蒼は言われた通りに記入して、南さんに用紙をかえした。
ノックの音もなくドアが開き、男性が入ってきた。蒼たちを一瞥して、その男性は南さんのほうをみた。
「新入生?」
「そう、園山さんって子は5段みたい。すごくない?」
「すごいね。園山さん、俺も5段だから早速だけど打ってみる?あっ、ごめん、まだ名前言っていなかったね。工学部3年の北崎孝一。君たちも工学部。俺は機械だけど、情報も知り合いいるから過去問とか回せるから大丈夫だから、安心して。森田さんも初心者でも大歓迎だからね。」
「北崎君、女子部員がきて興奮するのわかるけど、一気に話すと引いちゃうでしょ。ごめんね。北崎君男子校出身で、工学部で女の子慣れしてないから。」
南さんは、両手を合わせて謝った。その仕草が可愛かった。
園山さんが北崎さんと囲碁を始めたのをみて、南さんが席に腰掛け蒼の方を向いた。
「森田さんは、初心者ってどの程度。ルールとか知ってる?」
「いや全然。園山さんに連れられてきたので、何も知らないです。」
「じゃ、教えてあげるからそこに座って。」
蒼は南さんの向かいの席に座った。
「囲碁のルール自体は簡単なのよ。『囲めば取れる』と『地の多い方の勝ち』だけ覚えてもらえればいいから。」
そう言いながら、南さんは碁盤の上に石を並べながら具体例を示してくれた。南さんの透き通るような白い手で碁石を置く様が、異様に美しく感じられ蒼は思わず見入ってしまった。
「囲めば取れるのはわかったけど、『地』って何ですか?」
「囲碁は陣取りゲームだから、自分の陣地の事よ。ほら、この本だと白で囲ってあるここが白の陣地、こっちが黒の陣地。」
「白の陣地に取り残されいる黒は?」
「それは、『死に石』って言って、取られているのと同じ。囲まなれなくても生きる方法がないと諦めたら、取られているものとして扱うの。」
南さんがわかりやすく教えてくれるおかげで、蒼はなんとなく理解できた。
「森田さん、少しは興味持ってもらえた?女子部員、私しかいないから、入ってくれると嬉しいな。」
「ごめんなさい。こんな格好しているけど、男子です。」
最近蒼は女の子のような声を出す練習を始めたこともあり、南さんは蒼が男であることに気づかなかったようだ。騙してしまったことで親切に教えてくれた南さんに、申し訳なく感じてしまう。
「ひょっとして、ハクジョ男子?私も白石高校出身。女の子にしては声が低いなと思ってたけど、言われるまで気づかなかった。私高校時代、ハクジョ男子と同じクラスになることなかったから、会うの初めてだけどかわいいね。」
南さんは嬉しそうに笑ってくれた。きれいな南さんから、お世辞とわかっていても『かわいいね』と褒められると照れてしまう。
「初心者でも大丈夫ですか?」
照れているのを誤魔化すように蒼は質問した。
「2年生にも初心者から始めた子もいるし、隣の将棋部やボードゲーム研究会の子も遊びに来るから、気にしなくていいよ。」
「そうなんですか?」
「夏合宿も一緒にして、昼間は囲碁するけど、夜は将棋やったり、モノポリーで盛り上がったりと楽しいよ。」
南さんが素敵な笑顔で話しかけてくる。囲碁も楽しいそうだし、なにより南さんと一緒にいたい。蒼は囲碁部に入ることを決めていた。
「ありがとうございました。」
「また、遊びに来てね。」
園山さんの対局が終わり、南さんや北崎さんに見送られながら部室を後にした。文化部棟をでながら、蒼は園山さんに話しかけた。
「園山さん、どうだった?」
「北崎さん強いけど、優しかったし、他のみんな良い人だったね。私、入ろうかな。森田さんは?」
「私も入るよ。」
「よかった。ところで、森田さんって、恋愛対象男なの、女性なの?」
唐突な質問に蒼は驚いた。
「女性だよ。高校時代から付き合っている彼女が薬学部にいるよ。」
「そうなんだ。森田さんの南さんを見る目が、惚れている感じだったから。」
中高部活をしなかった蒼にとってはじめて接する年上の女性である南さんに、蒼はすっかり心を奪われてしまった。好きという感情よりは、南さんみたいな素敵な女性になりたいという憧れの気持ちが強い。
そんな気持ちを見透かされて、少し恥ずかしい蒼であった。
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