初めての友達

 ガイダンスでは、履修登録の仕方や選択科目、必修科目などの説明があった。工学部と言っても、基礎教養で英語など外国語や「科学技術の歴史」など歴史の授業もあるようだ。

 ガイダンスを終えると、ちょうどお昼ご飯の時間になっていた。

「ねぇ、さっきの話の続き学食でご飯食べながら聞かせてよ。」

 蒼はガイダンスは午前中だけだったので、それから家に戻り家で昼食をとる予定だったが、園山さんが蒼の高校時代のことを聞きたがっていたので、一緒に学食に行くことにした。


 工学部の校舎から学食まで歩いて5分程度。同じ大学の中とは思えないほど遠い。ようやくたどり着くと、お昼時ということもあり行列ができていた。行列に並びながら、入り口に置かれたメニューを眺めてみる。

「うちの高校、学食なかったから、初めての学食楽しみ。」

 園山さんは学食のメニューを見ながら少し興奮していた。食券を買う蒼の高校の学食とは違い、お盆をもって移動しながらおかずやご飯・麺類をとって、最後に会計するカフェテラス方式のようだ。

 いろいろな主菜や小鉢が多く並んでいるので迷ってしまうが、自分が迷って立ち止まることで渋滞を起こしてしまうので、素早く小鉢のきんぴらと主菜のチキンカツに決めお皿をとった。

 会計を済ませて混雑している食堂の中から空席を見つけ席に座ると、園山さんが遅れてやってきて蒼の前の席に座った。園山さんはご飯を食べながら、蒼の高校時代のことを聞き始めた。


「ハクジョ男子って、卒業後もみんな女の子の格好し続けるの?」

「トランスジェンダーの人たちはそのまま女の子になるみたいだけど、先生はそれ以外の生徒は、半分くらい男に戻るみたい。半分くらいは女の子続けるみたいだけど、大学卒業までにはほとんど男に戻るって。」

「就活とかあるからね。」

 女の子の生活は楽しいが、男がスカートを履き続けることに世間の目は厳しい。就活などを機に多くの卒業生も男に戻るようだ。蒼はメンズスーツを着ている自分を想像できないが、自分も就活の時には男に戻るのだろうかと考えてしまう。


「ところで、森田さんの服ってかわいいよね。そのカーディガンも袖口のリボンがついていてかわいい。私より女の子っぽい。」

 園山さんは、黒のジャンパースカートにボーダーのシャツを合わせている。地味だけど、質が良いものを着ている。

「よく言われるけど、女の子になろうとして必要以上に女の子になるみたい。」

「そんなもんなんだね。」

 園山さんはカツカレーを口に入れた。蒼もカツカレーを美味しそうとは思ったが、女の子らしくないと思って躊躇してしまった。冷静に考えれば女の子がカツカレー食べて悪いことはないが、変に女の子らしさを考えてしまい行動が制限されている自分がいる。


 翌日初めての講義をうけるため工学部の教室に入った蒼は、まだ授業開始10分前ということもあり人のまばらな教室を見渡して、黒板の見やすさを考えて中段左側の席に座った。

「今日も隣り座ってもいい?」

 授業開始5分前にやってきた園山さんが、蒼の隣に座った。そのあと講師の先生が教室に入ってきて授業をはじめた。授業が始まり大部分はまじめに授業を受けているが、私語を続ける人、授業途中で抜け出す人、スマホをいじり続ける人がいて蒼は驚いた。


「森田さん、次の授業行こう。」

 授業が終わり高校とは違う授業風景に呆然としている蒼に、園山さんが声をかけてくれた。次の線形代数学入門の講義のある教室に向かって一緒に歩き始めた。

「大学の授業って、まじめに授業受けてない人もいて、高校と大違いだね。」

「そうだね。先生もとくに注意することないもんね。」

 次の授業も同じような感じだった。高校時代頑張って勉強してたどり着いた大学の授業風景が、期待したものとちがって少し落ち込んでしまった。


 蒼たちはお昼ご飯は食べ終わったが、3限目は空きコマのため4限目までの時間をそのまま食堂で過ごすことにした。

「森田さん、サークルとかはいるの?」

「何か入りたいとは思っているけど、決めてない。園山さんは?」

「うち、高校時代囲碁部だったから、大学でも続けたいと思ってる。こうみえても、5段だよ。」

 囲碁の5段がどれくらい強いかわからないが、得意げな園山さんをみているとそれなりにすごいことなんだろうと思う。園山さんは鞄から一枚のチラシを取り出した。囲碁部の新入生勧誘のチラシだった。

「森田さん、囲碁部に一緒に入ろうよ。」

「一度もやったことないから、無理だよ。」

「大丈夫、初心者歓迎って書いてあるし、うちが教えるから大丈夫だよ。今日4限目終わったら行ってみよ。」

 たしかにチラシには初心者歓迎と書いてあった。なにもサークルに入らずに学生生活をおくるのも味気なさそうなので、ひとまず見学に行ってみることにした。

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