男子とデート

 次の日昼休みはるちゃんと一緒にお弁当を食べながら、昨日の金本君のことの話題となった。

「私たちがカラオケで楽しんでいる間、蒼ちゃんも楽しんでたんだ。」

 理恵ちゃんはそう言って、お弁当のプチトマトを口に入れた。

「楽しんではないと言えば嘘になるけど、別にそんな関係じゃないし。」

 はるちゃんの様子を見ながら、蒼は答えた。

「蒼ちゃんも女の子になったね。カッコいい男子にあこがれるなんて。」

「涼ちゃんはどう?かっこいい男子見て憧れるたり、好きになったりする?」

 はるちゃんがからかってきたので、蒼は話題を涼ちゃんにふってみた。

「この学校にいると普通の男子生徒見ることないし、理恵ちゃんのこと好きだし、よくわからない。」

 そういって頭を理恵ちゃんの方に近づけると、理恵ちゃんが涼ちゃんの頭をなでなでしていた。妹キャラの涼ちゃんは、甘えるのが上手で人前でも理恵ちゃんに甘えている。そんな涼ちゃんをお姉さんのように受け入れている理恵ちゃん。二人の相性はよさそうだ。


 土曜日、金本君の応援のために男子の準決勝が行われる体育館に行くため、蒼は家をでた。いつもは、はるちゃんたちに合わせるために制服で行っていたが、今日は私服にした。むしろ私服の姿も見てもらいたい自分もいる。

 今日はキャミソールワンピースに白のブラウスを合わせてみた。軽くメイクもして、アイシャドーにラメも入れてみた。


 体育館に入ると、試合前のウォーミングアップが行われているところだった。金本君もサーブ練習をしている。今日も応援に行くことは金本君に伝えているので、金本君も蒼の存在に気づいた。練習中ということもあり、一瞬視線を合わせてうなずいてくれただけだったが、それでも気づいてもらえた嬉しさがあった。

 試合が始まると、ベンチスタートの金本君はベンチに座りながら真剣な表情で試合を観察している。

 1セット目の中盤にピンチサーバーとして、金本君の出番がまわってきた。ジャンプサーブで相手のサーブミスを誘い、得点につなげていた。2本目のサーブをネットに引っ掛けた後、すぐに交代でベンチに下がった。

 2セット目も一度交代で入った後、ローテーションで後衛に下がったところで交代になった。

 試合は2セット連取であっさり終わり、明日の決勝進出が決まった。


 試合後、体育館の前だと他の部員に見つかるからということで公園のベンチで待っていると、制服に着替えた金本君の姿が見えたので手を振った。

「お待たせ。今日の服カワイイね。」

 早速かわいいと言われて嬉しいけど、照れてしまって顔が赤くなるのが自分でもわかる。

「金本君も、ジャンプサーブかっこよかったね。」

 蒼がほめると、今度は金本君が照れた笑顔を見せた。

「でも、少ししか試合に出られず残念だったね。」

 金本君はベンチにいる間、相手を観察してサーブを狙うならどこか、セッターの癖などを観察しておいて、出番がきたときに備えている話をしてくれた。

 公園を一緒に歩いていると、女の子扱いしてくれるのが嬉しいと思う半面、あまり金本君に期待を持たせても悪いなと思ってしまう。


 公園デートも終えて駅で別れて電車でこの後どうしようと考えて、はるちゃんに相談するわけにもいかないので、理恵ちゃんに相談のラインをしてみた。

 理恵ちゃんからは電話がかかってきて、

「蒼ちゃん、女の子気分でのデートは楽しかった?」

「女の子扱いされて嬉しかったから応援に行ってみたけど、あんまり続けると金本君に悪いかなとおもって、上手くかわす方法ないかな?」

「いい考えがあるから任せておいて。明日も試合見に行くでしょ、私も行くから。何時に行けばいい?」

 蒼は明日の試合時間を使えて通話を終えた。


 翌日試合会場の体育館に行くと、理恵ちゃんとほかにもう一人バレー部の試合でみたことのある女子がいた。蒼が挨拶すると、

「はじめまして、理恵と同じバレー部の永田です。」

 理恵ちゃんの考えていることは理解したので、蒼はだまって3人で試合を見ることにした。


 3人で金本君を応援して、優勝を見届けた後待ち合わせの公園に移動した。金本君が駆け足で近づいてきたところで、金本君が蒼に話しかけるよりも先に永田さんは金本君に話し始めた。

「白石高校の永田です。優勝おめでとうございます。ジャンプサーブかっこよかったです。」

 永田さんがほめたところで、金本君が照れはじめた。あとは二人でバレーの話で盛り上がり始めたので、邪魔にならないように理恵ちゃんと蒼はそっとその場を離れた。


 理恵ちゃんは思い通りいったのが嬉しかったみたいで、上機嫌で話し始めた。

「思った通り男子校でバレーばかりやってたから、女の子に対する免疫がないのよ。あんなタイプはちょっとほめるとすぐに浮かれて、その気になるよのよ。」

「それで永田さんを紹介したの?」

「ちょうど永田さんも彼氏が欲しいっていってたからちょうどいいかなと思って。蒼ちゃんへの興味をそらせたし、永田さんも彼氏ができそうだし、いいことづくめだね。」

 あれほど蒼に興味を持ってくれていたのに、あっさりと永田さんに乗り換えられたのはちょっとショックだった。やっぱり本物の女の子には勝てない。


「それに蒼ちゃんも私の事振って、はるのところに行ったでしょ。たまには振られる人の気持ちもわかってよかったでしょ。」

 それをいわれるとちょっと心が痛む。

「冗談よ。でも久しぶりだね、こうやって理恵ちゃんと二人きりになるの。」

「今日はありがとう。やっぱり理恵ちゃんは頼りになるね。はるちゃんも好きだけど、理恵ちゃんも好きだよ。」

 付き合っているときには恥ずかしくて言えなかった「好き」という言葉も、逆に付き合っていない今だと素直に言える。蒼はそういって頭を近づけると、理恵ちゃんが頭をなでてくれた。







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