インターハイ予選 その4

 翌週の土曜日、はるちゃんたちのインターハイ予選準々決勝が行われた。相手は昨年度優勝校ということで、あっさりと敗退してしまった。

「さすが強豪校、強すぎて手も足も出なかった。でも逆に未練も後悔なく部活を引退できてよかった。」

 試合後、いつものように体育館入口で待っていた蒼と涼ちゃんに、理恵ちゃんは明るい笑顔で声をかけてくれた。

「お疲れ様。」

「応援ありがとう。」

 理恵ちゃんと涼ちゃんはそう言いながら、二人で抱き合っていた。

 普通の男女だと、人目のつくところで抱き合っているのをみると、見ている方が恥ずかしくなるが、見た目女の子二人が抱き合っていても逆に微笑ましく見える。ハクジョ男子の数少ないメリットだ。


 はるちゃんと理恵ちゃんは、他のバレー部員と打ち上げにカラオケに行った。蒼達も誘われたが、流石に今日は3年間苦楽をともにした仲間だけの方が良いと思って涼ちゃんと一緒に遠慮することにした。4人での打ち上げはまた後日でもできる。

 バスで帰る涼ちゃんを見送った後、このあと特に予定はなかったので、金本君が出場する男子の準々決勝を見てみようと思い蒼は体育館に戻った。

 男子バレーは女子バレーよりも、力強く迫力があり見ごたえがあった。スパイクやレシーブをするたびに、ボールの音が体育館中に響き渡る。ジャンプサーブやバックアタックなど戦術も豊富で見ていて楽しい。

 1セット目を大差でとった後に、金本君が2セット目はスタメンでコートに入った。まだレギュラーではないと言っていたが、それに近い位置にはいるようだ。

 レギュラーをつかみ取るべく格下相手でも全力でプレーして、ブロックやアタックなどで何回か得点に絡んでアピールしていた。強豪校で活躍している姿をみると同じ男子として羨ましく思えると同時に、かっこいいと憧れてしまう。


 試合を観戦後、駅ビルのハンバーガーショップで遅い昼ご飯をとってからから帰宅しようとお店に入ったところで、店内に金本君の姿がみえた。混雑した店内でも、身長と体格ですぐに目についてしまう。金本君も蒼の存在に気づいたみたいで、手を振ってくれた。蒼も無視するわけにはいかず、注文したハンバーガーを受け取った後、金本君の座っていたカウンター席の隣に座る。

「西野さんの友達だよね?僕は西野さんと同じ中学校だった、金本といいます。」

 緊張がこちらにも伝わるような声で、金本君は自己紹介してくれた。

「森田蒼です。こんな格好してるけど、男子だよ。」

 蒼はそう言いながら、いったん立ち上がって制服のスカートをつまんで広げて金本君にみせた。

「そうなんだ。こんなに可愛いのに男子なんだ。」

 蒼は可愛いと言われて嬉しい反面、男子であることで金本君を失望させたことを申し訳なく思ってしまった。

 金本君から言われた可愛いは、はるちゃんたち女子から言われるのと、涼ちゃんたちハクジョ男子から言われるのとも違う、嬉しさがあった。


 最初は共通の知り合いのはるちゃんの話題で話していたが、徐々に打ち解けてきたのか、金本君は自分のことを語りだした。

 推薦で強豪校に入学したものの、同じような境遇のメンバーの中では埋もれてしまって、入学したのを後悔したこと。それでも懸命に努力を続けるうちに試合にも出られるようになって、3年生で初めて公式戦のベンチ入りメンバーに選ばれたこと。このままインターハイまで行って、できれば大学でもバレーを続けたいことなど、バレーに対する情熱を語ってくれた。


 あまり他人の自慢話は好きな方ではないが、金本君の話はなんとなく興味があって相槌を打ちながら聞いてしまい、気をよくした金本君も饒舌に話してくれた。話を聞きながら、こんなにカッコいい人が一生懸命自分に向かって話してくれると思うと嬉しくなってしまった。

「ごめん、初対面なのに自分の話ばかりしてしまって。今度は森田さんの話聞かせて。」

 そう言って連絡先の交換を求められたので、断り切れず交換してした。別れた後、帰りの電車ではるちゃんと付き合っていることは金本君に話さずじまいだったことに気づいた。


 その日の夜、はるちゃんに金本君と会って話したことをラインで伝えた。

「蒼ちゃんに負けたの、ちょっとショック。」

 はるちゃんから冗談っぽく返事が返ってきた。はるちゃんのことは好きだし、男子は恋愛対象ではないと思っていたが、実際男子からかわいいと言ってもらえて好意的に接してもらえると嬉しかったのは事実だ。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る